SciFinder ユーザーインタビュー

2017年5月掲載 

SciFinder を使えることは,研究者になる第一歩
~ 学生の自主性を育む SciFinder ~

横浜国立大学工学研究院 機能の創生部門 物理有機化学・分子設計研究室
五東弘昭 准教授 

集合写真
大学構内「名教自然」碑の前で,研究室の学生とともに(中央が五東先生)

国内でも早くからSciFinderを導入した横浜国立大学では,学部一年生の講義からSciFinderを取り入れています.「人を育てることが科学を育てる」との理念を掲げ,学生教育にも力を入れている五東先生に,SciFinderの活用方法について伺いました.
SciFinderを通して気づいたラジカルの「見える化」の有用性

  • JAICI:五東先生のご研究内容について教えてください.
  • 五東先生:不安定な活性ラジカル種の分析や,その利用方法の開発について研究しています.ラジカル種というものはオゾン層破壊などの環境汚染や,生体への悪影響をもたらすことで知られる,非常に反応性の高い物質ですが,それゆえに寿命が短く,捕捉して分析することが困難です.当研究室では,活性ラジカル種を捕捉でき,かつそれがどのような構造を持ったラジカルであるか分析するための化合物を開発しています.
  • Ryuta Toba, Hiroaki Gotoh, and Kazuhisa Sakakibara, Org. Lett., 2014, 16, 3868-3871.
  • 例えば,ニトロキシドラジカルであるtert-butyl(10-phenyl-9-anthryl)-nitroxide(BPAN)は不安定な活性ラジカル種を捕捉し安定化させることが可能です.それに加えて,ラジカル種の捕捉後にUV波長の変化が起こる,つまり補足後に色が変わるという性質を持っています.そのため,これまでは目で見ることが困難だった大気中の有害ラジカルの「見える化」も可能となりました.
  • JAICI:SciFinderが役に立った事例を教えてください.
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  • 五東先生:前述したラジカル種の「見える化」が可能となる化合物も,最初から狙っていたわけではなく,ラジカル種の捕捉能力が高い化合物を合成する予定でした.その際,ラジカル種を捕捉できる化合物をSciFinderで検索しているうちに,捕捉したラジカル種の分析がしやすい特徴を持つ化合物はあまりないことに気づきました.特に,UV波長が変わるような化合物については研究されていないようでしたので,それならその分野を拓いてみよう,と舵を切り替えた経緯があります.ひとつの目的に固執せず,視野を広げていろいろな可能性を模索できるのも,SciFinderというツールを使えるからですね.自分で設計した化合物の新規性を確認するためにはもちろん,偶然得られた化合物に対して,その特性を深く知るためにもなくてはならないツールです.論文の緒言や考察を書くときにも,SciFinderは欠かせません.これまでに同じようなキーワードの組み合わせで論文を書いている人がいるかどうか調べることができます.
    SciFinderで特に便利だと感じている機能は,Experimental ProcedureとSort by citing referencesです.前者は,SciFinder上で反応の実験項情報が得られるので非常に便利ですね.化合物の合成法を調べる上で,情報取得速度が格段に上がります.後者は,検索した論文を引用数順で表示することで重要な文献を真っ先にチェックできるため,重宝しています.
  • JAICI:Experimental ProcedureもSort by citing referencesも,比較的最近利用できるようになった機能ですね.
  • 五東先生:学生の頃にこの機能があれば,もっとスピーディに情報収集できたのになあと思います.当時は,既知化合物の合成法や試薬が市販されているかどうかを調べるためにSciFinderを使っていました.米国のScripps研究所にいた頃は医薬品の合成に携わっていて,そこでは主に特許情報を調べるためにSciFinderを使用していました.他にも検索ツールはありましたが,SciFinderでは特許も幅広く収録されていて,特許中の化合物も検索できることが非常に便利でした.

学生たちの調べる力,考える力を育むツール

  • JAICI:学生教育において先生が心がけていることを教えてください.
  • 五東先生:研究を進める上で重要なことは,自分で調べる・自分で考える能力を身に着けることだと考えています.そのため,学生たちにもそのような指導をしています.横浜国立大学理工学部では,「名教自然」という教育上のポリシーを大切にしています.学問は自らの意思で自発的かつ自由に学ぶものという意味です.
  • 名教自然について
    http://shisetsu.ynu.ac.jp/gakugai/shisetsu/2campus/bunkazai/yuukei/bunkazai_meikyou.html
  • JAICI:研究室では,いろいろな勉強会を開催されていますね.
  • 五東先生:学部四年生から大学院生まで縦割りで4~5人ずつのチームを作り,指定した化合物の合成方法を競いながら考える「逆合成サバイバル」などの勉強会を,月1回程度開催しています.この勉強会では学生たちがSciFinderを使って検索し,指定した化合物そのものの情報がない場合でも,類似化合物を合成するルートをヒントにアイデアを出し合います.時には,こちらが見つけ切れていなかった論文が答えとして提出されることもあって,学生たちの検索能力の成長に驚かされることもあります.ただ,SciFinder を使うと簡単に情報が出てきてしまうので,あえて教科書で学んだ知識だけで考えさせる場合もありますね.研究者として成長するには,自ら調べ,自ら実験の進め方を考えていくことが大切ですし,SciFinderは,それを行うのにとても有効なツールだと感じています.SciFinderで自分のテーマについて調べていくうちに,学生たちは自主性を身に着けていくように思います.
  • JAICI:教育の場面でもSciFinderを使っていただいているのですね.
  • 五東先生:SciFinderを使えることは,研究者になる第一歩だと思っています.大学教員も同じくSciFinderで検索し文献を読むという作業から,いろいろな仮説を立て,実験や研究を進めています.手にしているツールとしては,学生も教員も対等というわけです.しかし,研究室に配属されるまでの学生は,講義を受けることが中心になるので,どうしても学習に対して受け身になりがちです.
    研究者として自立,成長をしてもらうためにも,学生にはもっとSciFinderを知ってほしいし,使ってほしい.そうした思いで,横浜国立大学では学部一年生や三年生の実験や演習でも,SciFinderに触れる機会を設けているのだと思います.
    SciFinderには,有機化合物だけでなく,無機化合物や錯体などの幅広い化合物が収録されていますから,物理化学や無機化学,分析化学などの研究室に進む学生にも,早いうちからSciFinderの有用性を知ってもらいたいと思っています.
    学部三年生に対しては,化学情報協会の方にSciFinderの使い方に関する講義を毎年お願いしています.学生たちからも好評です.
    私が学生だった頃は,大学で同時にSciFinderを使える人数が制限されていたので,思い立ったときにすぐ検索できる環境ではありませんでした.今の学生は,その点でも非常に恵まれていると思います.講義でSciFinderを取り扱えるようになったのも,アクセス無制限になったおかげですね.

化合物に恋をして,よいところをたくさん見つけてほしい

  • JAICI:有機化学の研究にまい進するきっかけなどありましたら教えてください.
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  • 五東先生:研究の道に進もうと決めたのは,出身大学の恩師,林雄二郎先生 (現東北大学教授) の影響が大きいですね.とにかく有機化合物に向き合う情熱がすごい先生で,私がスローガンとして掲げている「有機化学に恋してますか?」というのも,実は先生の受け売りです.恋をすると,その人のことをもっと知りたい,仲良くなりたいと思いますね.研究でも同じで,取り組んでいる化合物を好きになれば,のめりこんでいけるものです.前述したBPANの研究で,当初の目的とは別の角度からさまざまな用途を見つけることができたのも,私がBPANに恋して,もっとよいところを知りたい,探したいという思いが強かったからかもしれません.学生たちにも,ぜひ研究対象を好きになって,どんどん調べて,化合物とのよい関係を築いていってほしいと思っています.
  • JAICI:学生たちには,どのような研究者になってほしいと思われますか.
  • 五東先生:自ら課題を見つけて,解決することができる研究者になってほしいです.自主性を持ってものごとに取り組んでほしい.そのためにも,学生から質問を受けたときには,すぐに答えを与えずに,あえて質問で返すようにしています.「どうしたらいいですか?」と聞かれたら「どう思う?」と聞き返したり,「SciFinderで調べるならばどんなキーワードが適しているだろう?」と考えさせてみたりします.広い視野からものごとを考えられるようになってほしいですね.
    学生が,こちらの想定以上の発見をしたり,自発的に考察したり,教員が示した仮説を覆すような論文を探してきたりすると,うれしくなります.学生たちにはこれからも,自ら研究を進める厳しさや楽しさをたくさん知ってもらいたいと考えています.
  • JAICI:本日はどうもありがとうございました.

略歴

写真,五東先生

五東 弘昭 (ごとう ひろあき) 先生

2009年東京理科大学大学院工学研究科工業化学専攻博士課程修了(林雄二郎教授).博士(工学)学位取得.同年5月より米国Scripps研究所博士研究員となる.2011年米国Scripps研究所助教.2012年横浜国立大学工学研究院助教.2013年に横浜国立大学工学研究院准教授に就任,現在に至る.

研究室ウェブサイト
http://www.chem.ynu.ac.jp/lab/saka-lab/