SciFinder ユーザーインタビュー

2013 年 1 月掲載 

実験は仮説を実証するための作業.調べることも研究の重要な一部

写真,福井先生
 芝浦工業大学システム理工学部 生命科学科 生理化学研究室 准教授
 福井 浩二 先生
酸化ストレスで脳細胞が老化するメカニズムを解明

  • JAICI:芝浦工業大学生命科学科の特徴を教えてください.
  • 福井先生:当大学の生命科学科は5年前に立ち上がったばかりの新しい学科です.もともと機械系の学科で,介護ロボットや手術用器具など医療にかかわる研究をしている先生方がいらっしゃいましたので,そうした身体の外からサポートするハード面の研究に,身体の中についてのソフト面の研究を融合し,芝浦工業大学らしい生命科学科を目指そうということでスタートしました.現在,ハード面を扱う生命医工学コースとソフト面を扱う生命科学コースがあり,学科共通の大きなテーマとして「老化」を掲げ,研究を進めています.
    私自身も芝浦工大の出身ですが,他大学を経て,この生命科学科発足をきっかけに母校に戻りました.
  • 研究内容の図
  • JAICI:ご専門の研究についてお聞かせください.
  • 福井先生:現在の私の研究テーマは,私が本学の学生時に指導教官であった浦野四郎教授(現芝浦工業大学名誉教授)が長年行っていた,老化の中でも酸化による脳の老化に焦点をあて,認知症などで認識機能が低下するメカニズムの解明を試みる研究,がベースとなっています.

    認識機能の低下は,脳の神経細胞死(アポトーシス)などによって起こることがわかっています.そこで,私たちは現在,もし神経細胞が死ぬ前にどんな変性を起こすのか,その変性にどんな原因物質が関わっているのかがわかれば,認知症になる前に診断し,早い段階から進行を抑えられるようになるのではと考え,これを研究テーマとして日々研究活動を行っています.

    その中で私たちはマウスの神経細胞を培養し,酸化ストレスをかけた際の変性を調べました.酸化は老化を加速させる原因のひとつです.すると,正常な神経細胞ではすっとまっすぐに伸びている神経突起が,酸化が始まると図のように傷害が起き,そのあとに凝集物を形成することがわかりました.酸化が始まった段階では,神経伝達は滞るものの神経はまだ生きているので,ここで発見して治療を開始することができれば,回復させることも可能かもしれないと考えています.

    今は,この変性を引き起こす原因物質の特定を進めており,候補が絞られてきたところです.将来,この物質を血液検査や尿検査で簡単に調べられるようになれば,健康診断で誰もが自分の脳の老化状態を知り,認知症を予防できる時代がくるかもしれません.有望なバイオマーカーとして診断薬や治療薬の開発にもつながるでしょう.

    実は人間は生理的な老化だけであれば128歳程度まで生きられるといわれています.ところが,鉄が錆びるのと同じように,私たちの体も酸化が進むとサビ(酸化したタンパク質)がたまって,老化が加速します.さまざまな病気も老化を早めます.こうした生理学的老化以外のプラスアルファの老化によって,私たちの寿命は縮まっていると考えられます.よく「寿命が延びた」といわれますが,私の考えは逆で,医療や技術の進歩によってプラスアルファの老化を起こす原因が取り除かれ,本来の最高寿命に近づいているのではないかと考えています. 私たちの研究によって酸化による老化を防ぐ方法が開発でき,人々が健康に長生きできるようになれたらうれしいですね.