SciFinder ユーザーインタビュー

電極反応などを用い,常温常圧で環境に負荷をかけない新反応を開発

  • JAICI:先生の研究室ではどのような研究をされているのですか.
  • 尾野村先生:医薬品合成にも利用できる新反応をみつけよう,グリーン・サスティナブルケミストリーの時代にフィットした方法論を開発しようというコンセプトで研究を進めています.
    私が学生時代から扱ってきた手法に電極反応を用いた有機合成があります.基本的に有機化学反応は電子の授受を伴うので,電気を流して陽極と陰極を作ると,さまざまな反応試剤を混ぜたり高温高圧をかけたりしなくても,炭素同士の結合などを進めることができます.医薬品合成では安全性のため残留金属を残さない反応が求められますし,環境のためには合成工程で廃棄される成分にも気を配る必要があるので,重金属を含む試剤を必要とせず安定的に扱える手法は有用だと考えています.
    扱う化合物は,医薬品に多い窒素の入った環状化合物が主です.振り返ってみると,学生時代から企業時代を通じて,私は極めて類似した化合物を扱ってきていますね.学生時代に扱っていた反応を,現在の進歩した機器を用いて検討しなおしてみたところ,完成できたものもあります.
    例えば,水溶媒中の方が扱いやすい糖類を対象に,金属カチオンを投入して,たくさんついている水酸基の中からある特定の箇所のみをキレート環形成によって活性化させ,分子変換する方法を開発しました.この概念を使うと,光学活性のある化合物を簡単に合成するなどさまざまな反応が可能になります(*1)(図1).
    有機触媒を使った反応も研究しています.例えばシクロヘキサンからアジピン酸を作るのに,今用いられている方法では金属触媒と高温高圧が必要であり,選択性もあまり高くありませんが,私たちは,少量の有機触媒と常温常圧で,ほぼ定量的に作れる方法を開発しました(*2)(図2).
    そのほか,廃油からバイオディーゼル(脂肪酸メチルエステル)を生産する際に副生するグリセリンの活用方法を検討してほしいと依頼され,私たちの技術を使って創薬の原料になるようなC3キラルユニットを作る研究もしています.
    企業との連携で実用的な開発研究をすることは多いですね.さまざまな企業にサポートいただいている面も大きいので,こういうこと試してもらえないかと声がかかると,研究テーマに合えば協力するようにしています.成果が出れば,形に残すためにも特許を取るようにしています.私たちの研究が産業界の目に留まって,実用化の役に立てばうれしいですね.もちろん,大学の研究ですので,仕上がった技術を論文化して学界でも認められるような成果を目指したいと思っています.特許ばかり先に取って論文をなかなか書かないもので,学生に怒られているのですが(笑).
  • 研究内容の図1
    図1 キレート環形成に基づく水酸基活性化
    キラル触媒(Cu-L*)を加えて撹拌するだけで,常温常圧で光学活性化合物を簡単に合成できる.
    研究内容の図2
    図2 窒素酸化物による酸化
  • (*1 (a) Y. Matsumura ,T. Maki , S. Murakami , O. Onomura, J. Am. Chem. Soc. 125, 2052 (2003); (b) 松村功啓,真木英俊,尾野村治,村上紗千恵,特許第3399028号
    (*2 尾野村治,松本洋平,竹本祐樹,岩崎史哲,特開2014-111576