SciFinder ユーザーインタビュー

今までにないものを創出するため,どんな情報も大切にしたい

  • JAICI:太田先生の現在の研究について教えてください.
  • 太田先生:現在は,液晶工学や有機半導体の研究を行っています. 液晶は,1888年に最初に発見されて以来,今では10万種類以上もの分子が液晶性を示すことが知られています.その多くは,ディスプレイなどに使用されている棒状の分子構造をしているのですが,1977年に円盤状の分子構造をしたディスコティック液晶と呼ばれているものも発見されています.このディスコティック液晶が,新たな未来材料として期待されており,我々の研究テーマとなっています.
    最近,有機薄膜太陽電池の材料として望まれる条件を満たした,「ねじり花超分子構造」と呼んでいる形をとるディスコティック液晶を開発しました(*2)(図).長鎖を置換したフタロシアニンとフラーレンの複合体液晶で,高効率な電子輸送を行うことが可能であり,かつ分子が自己集合して秩序正しくスタッキングすることができるために,実用化の際には量産可能な技術だと考えています.この研究においても,二つの分子を反応させる方法を見つけるのにSciFinderには非常にお世話になりました.

    棒状,円盤状のほかに,実はさらにもうひとつ,Flying-seed型液晶という全く違った構造をした液晶分子に関する報告が,1911年にドイツで行われています.私がたまたまその記事を見つけて,当時の学生に「こんな液晶があるなんて不思議だよねえ」という話をしたら,試薬が棚にあったこともあってすぐに検証実験を行ってくれました.そして翌日には「先生,これは間違いなく液晶です」と報告をしてくれたのです.およそ100年間ほとんど埋もれていたといってもいい研究を甦らせることができたという我々の報告は,英国化学会のハイライトニュースとしても取り上げられました(*3).マイナーな情報や報告であったとしても,大切に取り扱ってきた姿勢が実を結んだ出来事でした.以来,この液晶のさらなる研究にも取り組んでいます.
  • 研究内容の図
    図 ねじり花超分子構造
  • (*3) http://www.rsc.org/Publishing/ChemScience/Volume/2006/10/liquid_crystals_revisited.asp
    K. Ohta, T. Shibuya, M. Ando, J. Mater. Chem., 16, 3635-3639 (2006).
  • JAICI:これまでにない研究のために,SciFinderが役立っているのですね.
  • 太田先生:そうですね.研究者にとってこうした情報流通は不可欠であり,止められたら終わりです.私が図書館長の立場でしみじみ思うのは,小さい情報だから必要ないだろうといって,ジャーナルなどの購読やそれを検索するツールを簡単にとりやめてしまうのは危険なのではないか,ということです.新しい研究というものは,何をきっかけに生まれるか分かりません.一見些細に思える情報をきっかけとして,大発見が生まれることもあるのです.図書館は本屋とは違います.そこに行けばどんな情報でも見つけられるというところに価値があり,大きな意義があります.ですから大学図書館では,入手できる情報を可能な限り増やしていく姿勢を取り続けるべきではないかと考えています.特に本学のような地方で研究を重ねる大学こそ,生き残るためには情報が重要なライフラインなのだということを,より多くの方々に理解していただきたいと思っています.
  • JAICI:最後に図書館長として最近,感じられていることはございますか.
  • 太田先生:大学予算には 1% のシーリングかかけられていて,図書費も含め,毎年予算が削減されています.図書費に限りませんが,「決められた予算内でやる」という考えに縛られていては,特に理系学部はもうやっていけません.
    予算削減の結果,教員・学生一人当たりの校費もどんどん削減されています.私はまだ競争的予算を取っているほうだから何とかなっていますが,学生から「この試薬が買えないと卒業研究ができない」と言われ,仕方なく自分のボーナスを研究室に寄付して試薬を購入した教員さえいると聞きます.大学の基本的なインフラさえ蝕まれている状況なのです.
    2年前には国策による円安誘導でガソリンが急激に高騰したとき,イカ釣り漁船の団体が「このままでは生活が成り立たない」と声をあげて,政府が燃料代に補助金を出したことがありました.大学人は学問の世界にいるわけですが,大学だって同じことができると思うのです.急激な円安で電子ジャーナルが高騰して大学図書館は今危機的状況にあります。自分たちの置かれている状況については,もっと声をあげて知ってもらう必要があると思っています.
  • JAICI:本日はどうもありがとうございました.
  • 略歴

    写真,太田先生

    太田 和親 (おおた かずちか) 先生

    略歴:香川県生まれ.1981年大阪大学大学院工学研究科プロセス工学専攻博士課程修了.工学博士.東京芝浦電気株式会社総合研究所化学材料研究所 研究員を経て,1982年信州大学繊維学部にて助手となる.1986年フランスのパリ工業物理化学高等専門大学(ESPCI)にて,フランス国立科学研究センター(CNRS)客員研究員となる.1988年信州大学繊維学部助教授に就任.1995年オランダのデルフト工科大学にて文部省短期在外研究員となる.2005年信州大学大学院総合工学系研究科生物機能・ファイバー工学専攻スマート材料工学講座助教授を経て2007年同教授に就任,現在に至る.


    研究室ウェブサイト
    http://fiber.shinshu-u.ac.jp/lcgroup2/index.html