SciFinder ユーザーインタビュー

2009 年 5 月掲載 

プラスアルファの情報リテラシーがブレイクスルーを生む武器になる

北海道大学大学院医学研究科医学専攻生化学講座 助教 藤井 健吉先生
(現・花王株式会社 安全性評価研究所 研究員)

写真、藤井先生
プロトコルを化合物まで戻って見直すのに強みを発揮

 ご専門の分野を教えてください。

私が携わっている研究分野は,原因不明の病気の遺伝子レベルからの解明です.現在の研究において,疾患の原因と結果が完全に対応づけられているものはまだわずかです.遺伝子レベルで病気の因果関係を解き明かしていくことによって,様々な難病の根本的な克服の糸口が得られるのではないかと考えられています.
細胞を構成しているのはすべて“物質”ですが,それが集まり組織化されると“生命”になります.私はもともと理学部で生体高分子などを研究する化学系分野にいたのですが,その物質と生命との境界領域にとても興味があり,物質側から生命を研究したいという思いから,今に至っています.病気の根本原因を探る中で,物質の固有の性質が生命にどんな影響を与えるかを理解することは大切なことと考えます.


 SciFinder を使われるようになったきっかけは何ですか?

化学系出身のため,学生時代から SciFinder の検索対象データである Chemical Abstracts は知っていました.生命科学系に専門が移るに従って利用するデータベースは遺伝子関係や医学文献関係のデータベースに変わっていったのですが,大学の図書館で化学情報協会の方がSciFinderの講習をされていたのを聞いて,化合物辞典として使ってみたいと考えたのがきっかけでした.


 主にどのようなときに利用されていますか?

私たちの分野では,まずは遺伝子データベース,およびその産物であるタンパク質のデータベースを十分に使いこなすことが必須です.大学院生になれば,最低でも無償で公開されている NCBI (National Center for Biotechnology Information) などは使いこなせなければ論文はかけません.
その上でいかにプラスアルファの情報を味方につけられるか,が研究推進のための情報リテラシーになると思います.有力な海外ラボなどでは,情報検索に強い若手研究者をスタッフにかかえてあらゆるソースから情報を仕入れ,いち早く先端を捉えて研究の成果をあげているところもあります.いかに他よりも早く有効な情報を手に入れるか,自分の研究の希少性を見極めながら進められるか,情報リテラシーの有無が研究成果を左右する時代になってきています.
SciFinder は,その有力なプラスアルファとして利用しています.生命科学の分野では,“最適化された分子生物学プロトコル”を世界中で共有する慣習が十分に浸透しています.その結果として若い研究者が研究手法を物質・化合物レベルにまで戻って考えることが少なく,化合物は試薬の一成分程度にしか捉えられていないのが現状ですが,実はここにブレイクスルーのポイントがあります.研究者が化合物まで下りて実験プロトコルを見直すとき,これほど強いデータベースはないと思っています.


 役に立った事例を教えてください.

生化学の分野で,化学的なアプローチがブレイクスルーを生んだ例として,近年の lipid raft (脂質ラフト)の研究があります.これはインパクトがありました.
膜マイクロドメインの一種である脂質ラフトは,細胞膜上に局在しており,スフィンゴ脂質やコレステロールが高濃度に集積し,一般的な脂質が少ない領域と考えられています.この領域に局在するタンパク質も多数存在することが知られるにつれ,研究者の注目が高まりました.ラフト研究の先駆者たちは,実験で細胞膜を界面活性剤で溶かす際に,どうしても可溶化しづらい領域があることに気がついていました.初期の脂質ラフト研究の問題のひとつは,その難溶性の脂質領域を溶かすための界面活性剤の調整にあったのですが,その際に Chemical Abstract をはじめとする化合物の体系的データベースが役立ちました.ラフト研究のプロセスは,生化学的アプローチや遺伝学的アプローチでも,試薬の成分である化合物まで立ち戻って研究を丁寧に再構築することの重要性を示唆してくれていると思います.