SciFinder ユーザーインタビュー

2012 年 2 月掲載 

生物と化学を結ぶ新しい世界への扉 SciFinder

写真、矢島先生

東京農業大学応用生物科学部醸造科学科 醸造資源化学研究室 准教授
矢島 新 先生

微生物のコミュニケーションを,有機合成で解明

ご専門の分野を教えてください

図 醸造科学を専門として扱っている学科は全国でも当大学だけかと思いますが, その中において,有機合成を使って微生物を理解しようと取り組んでいるのがこの研究室です. 微生物同士は生理活性を有する物質を生産してコミュニケーションを取っているのですが, その物質がどのようなものかを調べようと思っても,小さな生物の作るものですから非常に量が少なく, 採取して分析するのは大変困難です.私たちは,これを化学的に合成・機能評価することによって立体構造を解明し,生命現象を明らかにしようとしています.

例えばトマトやジャガイモなどの農作物に被害を与える病原菌の一種に疫病菌 (Phytophthora) があります.これらの中には有性生殖によって卵胞子を形成し次世代を生み出すものが知られており, これに特定のホルモン (α1,右図) が作用していることが 1920 年代ごろからわかっていました.ところがその構造がなかなか解明できず,長年にわたり謎に包まれていたのですが, 2005 年に名古屋大学の小鹿先生らによって平面構造が明らかにされました (*1).私たちはその報告があったことを,翌年に雑誌「化学と生物」に掲載された記事で見つけて興味を持ちました. α1には4つの不斉中心がありますが,おそらく菌はこの三次元構造を厳密に認識しているだろうと考え,立体構造の異なるさまざまなα1を合成して卵胞子形成誘導活性を測定し,ただ一つの立体異性体のみに活性があることを解明しました (*2). その後,小鹿先生と共同でもう一つのホルモンの構造も明らかにしており (*3),最終的には知見を生かして疾病菌の防除法開発に役立てたいと考えています.

図 このほか,免疫力を高めると言われる乳酸菌について,どの部分が賦活活性を持つのかを細胞壁の細かい構造を調べて解明しようとしています.また,稲は病原菌に侵されたときだけ自らある抗生物質を生合成するのですが,その過程における中間物質で構造が解明されていなかったものがあり,生物学の先生から依頼されて合成したことがあります.

合成の方法を考えるにあたっては,SciFinder が欠かせません.ちょっとアイデアが浮かんだとき,困ったことがあったときなど,毎日のように利用しています.

(*1 Jianhua Qi et al,, Science, 2005, 309, pp 1828)
(*2 Arata Yajima et al., Nature Chemical Biology, 2008, 4, pp 235-237)
(*3 Makoto Ojika et al., Nature Chemical Biology, 2011, 7, pp 591-593)