CAS Student Information Exchange Program に参加して

2010 年 12 月掲載 

京都大学大学院理学研究科化学専攻 博士後期課程2年
日本学術振興会特別研究員
三戸 祐太 (さんのへ ゆうた) さん


写真,三戸さん
オハイオ州立大学にて CAS Student Information Exchange Program 参加メンバー
(三戸さんは後列左から3番目)


SciFinder の開発元である米国 CAS は 2010 年夏,化学情報検索に興味のある世界の大学院生を対象とした情報交換プログラムを開催しました.日本からこのプログラムにただ一人参加した,京都大学の三戸さんにプログラムの印象について伺いました.


  • JAICI: プログラムに申し込まれたきっかけを教えてください
  • 三戸さん: 附属図書館から配信された募集案内のメールを見て知りました.旅費・滞在費の全てをCASが負担すること,またちょうど夏休み期間でもあったので軽い気持ちで応募しました.応募には化学情報検索に関する英語のエッセイを提出する必要がありましたが,そうすると非英語圏からの応募は少ないだろうから狙い目かなと思ったのも理由ですね.


  • JAICI: おおまかなスケジュールを教えてください
  • 写真
  • 三戸さん: 初日は滞在先のホテルのディナーで参加者どうしの顔合わせがありました.二日目はまず,CASのCEOからCASの概要・歴史の紹介がありました.その後は,論文・化合物の登録について実際の作業現場や,近くにあるオハイオ州立大学の構内を見学しました.三日目は事前アンケートから情報検索全般についての議論とTLO(技術移転機関)や産業技術博物館の見学でした.四日目はSciFinderの改善案に関するプレゼンテーション.最終日はコロンバス市内の自由行動でした.前半はCAS側の紹介(インプット)が多く,後半はCASに対する意見(アウトプット)が多かったです.


  • JAICI: どのような方が参加されていましたか?
  • 三戸さん: 8カ国から11人が参加しました.アジアからは私と,米国に留学しているインドと中国の方が参加しました.参加者の研究分野も有機合成化学・生物化学・高分子化学・計算化学・物理化学と多岐にわたっていました.


  • JAICI: どんなディスカッションを行いましたか?
  • 三戸さん: CASのスタッフが参加者を4つのグループに分けて,各グループがプレゼンテーションを行いました.私は中国の方と組んで,生物系ユーザーにSciFinderをもっと使ってもらうための機能追加を提言しました.生物系の論文については,内容の信頼性が高くない場合があります.その場合,生物系の研究分野ではネット上のフォーラムで論文に対するコメントを加えることで世界中の研究者がすばやく情報を共有することができますし,さらにディスカッションすることもできます.この世界中のユーザーどうしの情報共有機能の追加を要望として伝えました.CASのスタッフとは我々が学生だからとかは全く関係なく,かなり真剣に議論しました.そのため,我々が発した意見・提言について,かなり深く聞かれました.実際,CASのスタッフからは「何か要望があるとしたら,なぜそれが必要なのか,いったいどこが問題なのか,それはどういう状況で起こった問題なのか,そういう背景にあるところを教えてほしい」と言われました.


  • JAICI: SciFinderやCASでのデータベース作成について,新たな知見はございますか?
  • 三戸さん: CASが作成している全てのデータは必ず科学者の目でチェックしていることです.現在,SciFinderはログインできないときが多いので正直あまり使っていないのですが,科学者の手で作っている信頼性の高いデータベースなので,もうちょっと積極的に使いたいと思っています.そのためにも,大学には同時アクセスをもっと増やして欲しいのですが...あとはCASのデータベースの利用の15%が日本のユーザーということ,企業と大学とではSciFinderの契約額が相当違うということも知りました.大学は恵まれている環境なんだなあと思いましたね.


  • JAICI: CASに対する印象はいかがでしたか?
  • 三戸さん: CASのスタッフは本当にいい人たちばかりでしたし,学生にはもったいないのではと思うぐらい良い待遇でした.「化合物をデータベースに登録する仕事を15年間行っているよ」というようなスタッフが多くいたりして,誇りを持って仕事をしている方が多い印象です.


  • JAICI: 旅費・滞在費とは別に支給された1,000ドルの準備金は何に使われましたか?
  • 三戸さん: 参加にはビジネスカジュアルという指定がありましたので,そのための衣服の購入や海外旅行保険などに使いました.


  • JAICI: プログラム終了後,ボストンで開催されたFall 2010 ACS National Meeting (2010米国化学会秋季年会)にも参加されたそうですが.
  • 三戸さん: 年会参加についても全額CASが負担してくれました.米国化学会の年会には初めて参加しましたが,大規模で情報交換・人脈形成という点でもとても良い学会した.論文でよく名前を見かける著名な先生方が次々に講演するのを聞くことができ,非常に良い機会だったと思います.今回は聴講のみでしたが,将来海外で研究することになったらぜひこの年会で研究発表を行いたいと思いましたね.


  • JAICI: 参加した皆さんと今でも連絡はありますか?
  • 三戸さん: 先日,JACSに論文(*)が掲載されましたが,早速お祝いのメールが来ました.みんな世界各地に散らばっていますが,機会があれば会いたいですね.
    (* Yuta Sannohe et al., J. Am. Chem. Soc., 2010, 132 (46), pp 16311-16313)


  • JAICI: 最後に,全体的な感想を教えてください.
  • 三戸さん: 国籍で考えると8カ国から参加しておりグローバルな環境でしたし,また研究のバックグランドも様々でしたので,多様な考え・見方のある中で議論を進めていくというのが非常に良い経験になりました.CASは今後もこのプログラムを続けていきたいという意向を示していましたので,チャンスのある方はぜひ参加してほしいと思います.

  • JAICI: 本日はどうもありがとうございました.


  • CAS について
  • CAS CAS(Chemical Abstracts Service)は米国化学会(American Chemical Society)の一部門で,世界各国の科学雑誌,特許,その他資料から化学関連文献の索引・抄録を作成・提供しています.本拠地は米国オハイオ州コロンバスで従業員数は約1,300人です.編集スタッフは600人おり,うち400人が化学もしくは関連分野の博士号を有しています.CASは冊子体Chemical Abstracts(CA)からオンラインデータベースへと時代に合わせてシステムを進化させながら,世界中の科学者の研究・開発活動をサポートしています.