2011年SciFinder Academic Exchange Programに参加して

2011 年 9 月掲載 



東京大学大学院 薬学系研究科 分子薬学専攻 博士課程前期
中野渡 早知世 (なかのわたり さちよ) さん



CAS 本部前にて 2011 年 SciFinder Academic Exchange Program 参加メンバー
(中野渡さんは前列右から 4 番目)



2011 年 8 月 23 日,米国オハイオ州コロンバスの CAS 本部に,SciFinder Academic Exchange Program のメンバーとして世界各国から選出された 13 ヶ国の大学院生 16 名が集結しました. 1 週間にわたって CAS 経営陣,編集担当,技術担当の専任者とミーティングを行い,若手研究者から見た化学の世界的動向について論じ,情報科学の進歩を促すための助言を行いました.日本からただ一人参加した,東京大学の中野渡さんにプログラムについて伺いました.


  • JAICI: 中野渡さんの研究テーマと SciFinder の使い方を教えてください
  • 中野渡さん: 学部生の時から一貫して,生理活性をもつ低分子有機化合物の合成法の開発に取り組んでいます.
    SciFinder は実験項(experimental procedure)を調べたり,テーマの方向性を決めたり実験結果を考察する際の新規性をチェックしたりするために用います.


  • JAICI: 今回のプログラムに応募した動機を教えてください
  • 中野渡さん: SciFinder のログイン画面横の広告欄で募集告知を見たのがきっかけです.リンクを辿ると,費用全額CAS負担でアメリカに行けて,ACS ミーティンングにも参加でき,さらに色々な国の学生と交流できることを知りました.夢のようなプログラムだと思い,こんな好機を逃す手はないと思い応募しました.当時は文部科学大臣と日刊工業新聞社様から立派な盾を頂いたばかりで,自信と勢いに任せて応募書類の準備に取り掛かったのを覚えています.
    ※理工系学生科学技術論文コンクール 最優秀賞・文部科学大臣賞受賞(http://www.rikokei.jp/10nyusyo1.html


  • JAICI: 参加が決まったとき,周囲からはどのような反応がありましたか?
  • 中野渡さん: プログラムの参加者に選ばれたとのメールを見たときは,最初は信じられなくて,でも次第にとても嬉しくなって,周囲に自慢して回りました.みんなとても喜んでくれて「よかったね,おめでとう!」と言ってくれました.


  • JAICI: プログラムはどういうスケジュールでしたか?
  • 中野渡さん: 到着日はホテルで歓迎レセプションがあって,二日目は自由時間でした.三日目からは CAS でのプログラムが始まり,CAS 所長のプレゼンテーションを受け,CASスタッフと学生のディスカッションが始まりました.また,近隣の科学関連施設であるオハイオ州立大学やバテル記念研究所や科学博物館等も見学しました.自由日も十分あり,またプログラムの終了後には 米国化学会(ACS)ミーティングに参加させていただきました.

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  • JAICI: 他のメンバーはどういう方々でしたか?
  • 中野渡さん: 参加者はインド,イスラエル,中国,イギリス,エストニア,チリ,ドイツ,イタリア,ペルシア(イラン?),日本,アメリカの学生で,そのうち何人かはイギリス,スイス,オーストラリア,オランダ,アメリカへ留学しています.専攻分野も有機化学から生物,材料,物理化学に理論と多岐に及んでいました.また,既婚者,お子さんのいる方,未婚でお子さんのいる方もいて,学生と言っても様々だと思いました.インドからの参加者3人は3人とも母語も文字も違うことにも驚きました.世界は広いなぁ,と.


  • JAICI: ディスカッションの様子はいかがでしたか?
  • 中野渡さん: 一日だけ 2 つのグループに別れてセッションを行なった以外は,全員参加でセッションが行われました.セッションの進行形式は,CAS のスタッフの方が背景説明や問題提起をプレゼンテーションで行い,それに対して参加者から意見を求める,という具合でした.セッションの雰囲気は担当スタッフに大きく依存したと思います.意見を強く求める人や単にコメントを求めるだけの人と様々でした.意見を述べるときは皆冷静でした.白熱した議論もあったといえばありましたが,どちらかというと好き嫌いの好みについてであり,あまり本質的ではなかったと思います.


  • JAICI: ディスカッションで,御自身にとって新たな発見はありましたか?
  • 中野渡さん: 私の今の研究環境は科学情報を得るという観点からはとても恵まれていると思いました.学部生から SciFinder がほとんど制限なく自由に使えて,母国語で書かれたマニュアルが利用可能なのは参加者の中でも私くらいだったと思います.他の国もしくは大学は,私の感覚では信じられないほど同時にアクセス可能な数が少なく,また国によっては試薬会社の SciFinder による登録が進んでいなくて不便な思いをしていたり,クライアントバージョンから Web バージョンへの移行が進んでいなかったり,それまで想像もしていなかった不便さがあることを知りました.こういった事を直接 CAS に伝えることができるという意味でも,意義のあるプログラムなのだろうと思いました.


  • JAICI: CAS のスタッフにはどういう印象を持ちましたか?
  • 中野渡さん: CAS のスタッフは,とてもプロフェッショナルであるという印象を持ちました.参加者の何気ない意見を注意深く聞き入れる姿勢や,解決策を複数よく練ってあることから,少しでも SciFInder を使いやすく,よりよいツールにしようという意気込みが感じられました.CAS の歳入が純粋に利益収入のみで,ACS やその他組織からの補助金は無い,と今回のプログラムで知りました.SciFinder がベストな情報検索ツールであり,商業的にも成功しているのはこういう姿勢があるからなのだろうなと思いました.

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  • JAICI: 今回のプログラムで SciFinder や CAS のデータベース作成など,情報検索において新たな知見は得られましたか?
  • 中野渡さん: 技術革新の先端では,特許が大きな役割を担っていることを知りました.今後,実験項を検索する際は,特許にも注目してみようと思いました.また,一つの論文のデータベースへの登録が,物性担当,構造担当,キーワード担当というように細かく分業化され,多くのよく訓練された学識者の手により行われていることを知りました.全体的な効率は一人で行うよりも落ちるそうですが,質の高いデータベースの構築には手間がかかるものなのかなぁと思いました.


  • JAICI: 様々な国の学生と交流したことで,ご自身の中に変化はありましたか?
  • 中野渡さん: 化学に対するモチベーションが上がりました.化学はそれ自体素晴らしい学問であり,叡智です.今回のプログラムに参加して,化学に携わる本当に素敵な人が,世界中にこんなにいるのだと知りました.残念ながら,Exchange Program 自体では自分の研究バックグラウンドを話す機会はありませんでしたが,移動中のバスや食事の時に参加者と,またはACSミーティングでのポスターセッションや International Student 向けのパーティーで知り合った人達と,互いの取り組んでいる化学,面白いと思うものを語り合うのは本当に楽しくて,化学を学んで良かったと心から思えた瞬間でした.国籍や人種,信条に違いはあってもみな共通の化学の言葉を持ち,化学する心を持っているのです.

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    プログラムの終わりに参加者と離れるのはとても寂しく感じられましたが,みな化学で繋がっていて,また会えるのだと思うと心強いです.他の参加者の言葉を借りるなら,化学の世界はナノ世界,ですから,きっとまた会えます.とはいえ可能なら CAS に是非とも REUNION をお願いしたいです. きっと参加者は各々の国で,「よし,世界レベルで化学で目立ってやろう!」と大きな志を抱いているのだと思います.


  • JAICI: 次回のプログラム参加者にメッセージをお願いします.
  • 中野渡さん: 非英語圏からの参加者は,何といっても英語を十分に練習しておきましょう.また,一応選択式にはなっているとは思いますが,ACS ミーティングは参加した方が楽しいので,是非参加されることを勧めます. 現地に着いたら,不安や心配,カルチャーショックに時差ぼけ,強い内省,色んなことがあるでしょうが,できるだけリラックスして楽しんでください. オハイオ州コロンバス市はハリウッドのギャング映画のような危険なところではないようですし,CAS のスタッフは友好的で親切です.それに参加者は皆,性格の良さで選ばれたのではないかと思うほど,本当に優しく賢く個性豊かな素敵な人達でした.世界中から集まってきた仲間が,まるで化学反応を起こすようにお互いに刺激を与え合えたように思います.体調には気を付けて,楽しんで多くを学んで欲しいです.

  • JAICI: 本日はどうもありがとうございました.


  • CAS について
  • CAS CAS (Chemical Abstracts Service) は米国化学会 (American Chemical Society) の一部門で,世界各国の科学雑誌,特許,その他資料から化学関連文献の索引・抄録を作成・提供しています.本拠地は米国オハイオ州コロンバスで従業員数は約1,300人です.編集スタッフは 600 人おり,うち 400 人が化学もしくは関連分野の博士号を有しています.
    CAS は冊子体 Chemical Abstracts (CA) からオンラインデータベースへと時代に合わせてシステムを進化させながら,世界中の科学者の研究・開発活動をサポートしています.


※ 2011 SciFinder Academic Exchange Program については日経サイエンス 2011 年 12 月号に掲載されました.掲載記事はこちら