2012 SciFinder Future Leaders in Chemistry プログラムに参加して

2012 年 9 月掲載 


東北大学大学院生命科学研究科 分子生命科学専攻 博士課程前期
深澤 亮 (ふかざわ りょう) さん

※SciFinder Future Leaders in Chemistry は世界中の情報検索に興味があり SciFinder を
日々活用している化学専攻の大学院生を対象とした情報交換プログラムです.


オハイオ州立大学にて 2012 SciFinder Future Leaders in Chemistry プログラム参加メンバー(深澤さんは左から 2 番目)

米国化学会の情報部門 CAS が主催する 2012 SciFinder Future Leaders in Chemistry プログラムが 8 月,米国オハイオ州コロンバスで開催されました.多くの応募者の中から今年も日本の大学院生が選出されました.プログラムに参加した東北大学の深澤さんにプログラムについて伺いました.


  • JAICI: これまで深澤さんが日本で研究されてきたテーマと SciFinder の使い方を簡単にお教えてください.
  • 深澤さん: 海産ポリエーテル天然物の類縁体合成です.
    SciFinder は類似化合物の反応性を調べたり,テーマに関わる論文を検索したりする際に使います.


  • JAICI: プログラムに申し込まれたきっかけと動機について簡単に教えてください.
  • 深澤さん: 普段は研究室にこもって実験ばかりしていたので,夏休みを利用して海外に行きたいと考えていました.有機化学美術館主宰の佐藤健太郎さんのブログで見つけ,実験の合間に隠れながらこそこそとエッセイを書きました.


  • JAICI: どのようなプログラムでしたか?
  • 深澤さん: コロンバスの CAS 本部でディスカッションを中心として,Battelle 記念研究所,TechColumbus,オハイオ州立大学といった研究施設や大学の訪問など,盛りだくさんのスケジュールでした.またこのプログラム終了後は,フィラデルフィアで行われた米国化学会第 244 回大会に参加しました.

写真

  • JAICI: どのような方が参加されていましたか?
  • 深澤さん: イギリス,スウェーデン,フランス,インド,オーストリア,南アフリカ,オーストラリア,日本,中国,アメリカ,カナダ,ブラジルの 12 カ国,15 人の参加でした.そのうち,アメリカ生まれで大学院から海外に留学している人が多かったので,メンバーの半分以上は母国語が英語の学生でした.プログラムの途中で気付いたのですが,参加者は全員自分より年上で,30 歳近くの人がほとんどでした.

    専門は有機化学を基盤とした研究をしている人が多いように感じられました.中には特許機関で働いた後,また大学に戻って科学技術とその法律的な処理を専門にしている人もいました.

    大学 4 年の時に留学した際は,よく人種ごとあるいは出身地域ごとにグループを作ってバラバラになってしまうことがありましたが,今回のプログラムで集まったメンバーの間ではそのようなことはく,基本的にどのメンバーとも満遍なく交流できたと思います.


  • JAICI: どのようなディスカッションが行われましたか?
  • 深澤さん: 基本的には全員参加のセッションが行われ,CAS のスタッフの方が背景説明や問題提起についてプレゼンテーションを行い,それに対して参加者が答えるという形式でした.担当スタッフにも依りますが,強く意見を求められることはなく,自発的に意見を述べていく雰囲気でした.普段使っている経験を基に,自由に意見を交換しました.

写真,ディスカッションの様子1
写真,ディスカッションの様子2 写真,ディスカッションの様子3

  • JAICI: ディスカッションで印象に残っているトピックスをご紹介ください.
  • 深澤さん: 小グループを組んで,好みの SciFinder のインターフェースを提案するというトピックスです.グループ毎に好みのボタンや機能を加えたり,並べ替えたりすることでそれぞれの理想の SciFinder を提示しました.


  • JAICI: CAS スタッフとのディスカッションについて教えてください.
  • 深澤さん: コーディネーターの Peter がプログラム全体を指揮してくれ,全ての場面に置いて参加者を全面的にサポートしてくれました.またその他のスタッフもみな暖かく参加者を迎えてくれ,ディスカッションの際は製品の説明を丁寧に行ってくれました.本当に製品の向上を心がけているのだな,ということを感じました.


  • JAICI: 今回のプログラムで SciFinder や CAS のデータベース作成など,情報検索において新たな知見は得られましたか?
  • 深澤さん: Battelle 記念研究所や TechColumbus 等の施設を訪問し,科学技術とビジネスの架け橋を行う事業を知りました.特許を扱い,利害が生じるような場面ではデータベースの管理が極めて重要だとわかりました.
    普段利用する情報検索では,研究に関連した論文を探し出すことです.しかし今回のプログラムを通して,科学情報検索はアカデミックにおける研究を推し進めるだけでなく,このような産業においても重要な役割を担っているということを知り,その利用価値の高さを改めて認識しました.


  • JAICI: ディスカッション以外のアクティビティはいかがでしたか?
  • 深澤さん: 朝から夜までスケジュールが組まれている日もありましたが,自由時間には声を掛けあって一緒に過ごしました.サッカーが好きなメンバーが多く,そのうちの一人がサッカーボールを持っていたので,近くの公園で希望者を募ってミニゲームをしました.

    またバーに飲みに行き,ロンドンオリンピックの閉会式をテレビで見ながら,ビールを片手にそれぞれの研究室の話や自分自身の話,また国の政治や文化についての意見を語ることもありました.

    仕事に就いてから大学に戻ってきた人,子育てをしながら研究をしている人など様々な人が居ました.メンバーの中で自分が一番年下であったので,ユニークな経験談は聞いていてとても興味深く,自分の進路を考える上でも参考材料になりました.

写真,アクティビティの様子1
写真,アクティビティの様子2 写真,アクティビティの様子3

  • JAICI: フィラデルフィアで開催された米国化学会第 244 回大会はどのように参加されましたか?
  • 深澤さん: 基本的には自分の聞きたい講演を予めチェックしておき,空き時間は観光などをしました.講演会場ではよくメンバーに会い,時間が合えばそのまま一緒に講演を聞いて回ったり,市街観光にでかけました.


  • JAICI: 米国化学会第 244 回大会についてご感想をお聞かせください.
  • 深澤さん: 普段は論文でしか名前を見ない研究者の講演を聞くことができる非常に貴重な体験でした.中でも 2010 年にパラウアミンの合成を達成したスクリプス研究所の Phil S. Baran 教授や,今自分が取り組んでいる海産ポリエーテル天然物を生合成仮説に基づいた手法で合成研究を行うマサチューセッツ工科大学の Timothy F. Jamison 教授の講演は,日本ではなかなか聞くことが出来ないので印象的でした.

    化学だけでなく,サイエンスの様々な分野が集まった巨大な学会でした.会場ではアンケートに答えると無料で配布してくれるグッズがあったので,メンバーと一緒にほぼ全てのブースを歩きまわりました.T シャツやマグカップ,分子模型のサンプルなど化学にまつわる様々な品を袋いっぱいにもらいました.

写真,米国化学会第 244 回大会の様子1 写真,米国化学会第 244 回大会の様子2

  • JAICI: CAS の参加者に対する姿勢はいかがでしたか?
  • 深澤さん: このプログラムの企画・運営を担当していた Peter,Sherri には全体を通してお世話になりました.2 人には感謝の気持ちを込めてメンバーの皆とお金を出しあって,寄せ書きを加えて全員で撮った写真を額に入れて贈りました.

写真,米国化学会第 244 回大会の様子3

  • JAICI: このプログラムを経験したことでご自身の中に変化はありましたか?また今回の経験を,将来どのように生かしていきたいですか?
  • 深澤さん: 今回のプログラムではあまり自分の研究について紹介する機会はありませんでした.しかし英語力も含めて,自分が取り組んでいる研究について発信できる能力をもっと高めたいと思いました.そのためには,自信を持って紹介できるだけの結果を出すことが必要ですし,普段からの積み重ねが大事だということを改めて認識しました.

    化学といっても分野は様々あり,その中で自分は有機合成化学を専攻している日本人.そのように自分を認識することは,日々の研究生活では意識しない気付きでありとても新鮮でした.
    また,普段の研究を客観的に見直すこともできました.自分の取り組んでいる研究がまとまった暁には,ぜひ世界に向けて発信したいと思いました.


  • JAICI: 次回のプログラムに参加しようと考えている学生にメッセージをお願いします.
  • 深澤さん: 留学していた経験もあってか,実験の忙しさにかまけて英語の準備を疎かにしていました.現地に着いて耳が慣れ,議論に参加できるようになるのに時間がかかりました.予め準備をしておけばもっとプログラムの前半から仲間と思いを共有して楽しむことが出来たのではないかと思います.
    また自己紹介のプレゼンテーションでは作成したファイルを忘れるという失敗をしてしまったことが非常に心残りでした.自分の場合は様々な場面で反省の連続だった様に感じられます.
    しかしその落ち込みを吹っ切るだけの楽しさや喜びがこのプログラムにはありました.世界の何処かで出会った仲間が頑張っていると思えば,時に辛く感じる研究にも前向きに取り組めるように感じます.


  • JAICI: プログラムに対するご意見・ご要望などありましたらお知らせください.
  • 深澤さん: 世界の化学を学ぶ仲間と出会うことが出来た,素晴らしいプログラムでした. 選抜されたメンバーはそれぞれ個性ある人達でしたが,皆性格が良くこのプログラムを互いに楽しむことができるこの上ないメンバーでした.
    アメリカを発つ前には,ブラジル出身のメンバーと,2 年後のワールドカップ・ブラジル大会でまた再会しようといった話も出ました.今回のプログラムだけに留めず,これからも良き仲間・ライバルとして化学に取り組める関係でいたいです.


  • JAICI: 本日はどうもありがとうございました.


  • CAS について
  • CAS CAS (Chemical Abstracts Service) は米国化学会 (American Chemical Society) の一部門で,世界各国の科学雑誌,特許,その他資料から化学関連文献の索引・抄録を作成・提供しています.本拠地は米国オハイオ州コロンバスで従業員数は約 1,300 人です.編集スタッフは 600 人おり,うち 400 人が化学もしくは関連分野の博士号を有しています.
    CAS は冊子体 Chemical Abstracts (CA) からオンラインデータベースへと時代に合わせてシステムを進化させながら,世界中の科学者の研究・開発活動をサポートしています.

※ 2012 SciFinder Future Leaders in Chemistry プログラムについては日経サイエンス 2012 年 11 月号に掲載されました.掲載記事はこちら