2014 SciFinder Future Leaders in Chemistry プログラムに参加して

2014 年 11 月掲載 

多くの人に勧めたい,素晴らしいプログラムです

京都大学大学院工学研究科 合成・生物化学専攻 機能化学講座 博士後期課程
稲葉 央 (いなば ひろし) さん

SciFinder Future Leaders in Chemistry は世界中の情報検索に興味があり SciFinder を日々活用している
化学分野の博士研究員・大学院生を対象とした情報交換プログラムです.

CAS 本部にて 2014 SciFinder Future Leaders in Chemistry プログラム参加メンバー (稲葉さんは前列右から 3 番目)

米国化学会の情報部門 CAS が主催する 2014 SciFinder Future Leaders in Chemistry プログラムが 8 月,米国オハイオ州コロンバスで開催されました.
多くの応募者の中から今年は 2 名の博士研究員・大学院生が日本から選出されました.プログラムに参加した京都大学の稲葉さんにプログラムについて伺いました.

  • 写真,到着日
    到着日のレセプション

    写真,アクティビティの様子1
    写真,アクティビティの様子2
    アクティビティの様子

    写真,稲葉さん
    写真,ディスカッションの様子1
    写真,ディスカッションの様子2
    ディスカッションの様子

    写真,食事の様子 1


    写真,食事の様子 2


    写真,アクティビティ 5


    写真,アクティビティ6
    • JAICI: 稲葉さんの研究テーマとSciFinderの普段の活用法を教えてください.
    • 稲葉さん: 蛋白質の構造設計,機能分子修飾によるナノマテリアルの構築です.SciFinderは主に蛋白質に修飾する分子の合成指針を決定するために使用しています.
    • JAICI: プログラムに申し込まれたきっかけと動機を教えてください.
    • 稲葉さん: 来年からアメリカでポスドクを行うことが決まっていますが,受入先の先生から,素晴らしいプログラムなので是非応募した方が良い,と勧めて頂いたのがきっかけです.また,過去の参加者も仰っていましたが,Chem-Stationで取り上げられていて,魅力を感じていました.倍率は高いかと思いましたが,英語のエッセイと履歴書,推薦書が必要なだけなので,応募のハードルは低いかと思います.
    • JAICI: プログラムへの参加決定後,周囲からはどのような反応がありましたか?
    • 稲葉さん: 国際的なプログラムに選ばれたのは初めてだったので,先生方から世界デビューだねと言われたり,知人,友人からは羨ましがられたりしました.
    • JAICI: どのようなプログラムでしたか?.
    • 稲葉さん: 到着日,1 日目はレセプション,グループアクティビティを行い,他のメンバーや CAS のオーガナイザーである Peter,Sherri と親睦を深めました.
      2 - 4 日目は参加者による自身の研究紹介,CAS スタッフによるレクチャー,ディスカッションに加え,CAS 本部,TechColumbus,Battelle 記念研究所,オハイオ州立大学の見学を行いました.
      6 - 10 日目はサンフランシスコに移動して,第 248 回米国化学会秋季年会に参加しました.
      また,有難いことに,プログラムの前にポスドク先のアメリカの先生を訪問する機会を与えて頂きました.柔軟に対応して頂いて大変感謝しています.
    • JAICI: どのような方が参加されていましたか?
    • 稲葉さん: アメリカ,カナダ,ニュージーランド,ブラジル,スペイン,ドイツ,イギリス,スイス,インド,日本,中国,韓国の出身者で,世界中からバランス良く集められているな,という印象でした.専門領域も,天然物合成やグリーンケミストリー,分光化学,生物化学等様々でした.純粋に化学に対するモチベーションが高く,専門分野の垣根を超えて積極的にディスカッションに参加していました.
    • JAICI: CAS でのディスカッションの様子を教えてください.
    • 稲葉さん: ディスカッションと見学を組み合わせたバランスのいいプログラムでした.最初は CAS スタッフによる SciFinder の機能に関するプレゼンが行われ,メンバー全員で自主的に質問や提案を行う,という形でした.その後グループを2つに分け,CAS スタッフによる SciFinder のインターフェイスに関するより細かい説明,ディスカッションを行いました.現在の SciFinder に関して,Best, Worst, Idea, Question という 4 つのカテゴリーを作り,カテゴリーに合う意見を出し,ホワイトボードに書いていくスタイルです.私は,Idea として,目的とする化合物の名前や化学式を入力するだけで,ステップ数や収率,原料の値段等を考慮して最も効率的に合成できるスキームが検索できれば便利ではないか,といった提案を行いました.少人数な分こちらの方がより白熱した議論になったように感じます.その後再び全員参加のセッションに戻り,論文の書き方や掲載までのプロセス,著作権の取り扱い,SciFinder の広告方法,PhD 取得後のキャリアプランをテーマとした,幅広いディスカッションが行われました.
    • JAICI: ディスカッションで印象に残っているトピックスをご紹介ください.
    • 稲葉さん: グループに分かれて行ったディスカッションの際に,二人一組となって,SciFinder を用いた文献引用システムや著者検索システムのインターフェイスの提案を行う,というのが面白かったです.私の組では,著者のこれまでの所属別に論文が検索でき,引用数,被引用数が一目で分かるシステムを提案しました.
    • JAICI: ディスカッションで,御自身にとって新たな発見はありましたか?
    • 稲葉さん: SciFinder は化合物及び反応検索に関して世界をリードしており,私もその目的でのみ使用していました.グループに分かれて行ったディスカッションで,文献検索,管理や,著者検索システムに関してもかなり力を入れているのが印象に残りました.既存の文献検索システムの利点,問題点は何か,どうしたら改善できると思うか,という点で意見が強く求められ,実際に使用している人の意見を積極的に取り入れ,世界中の人間が使えるように改善したいという意志を感じました.
    • JAICI: CASスタッフとのディスカッションについて,どのような印象を持たれましたか?
    • 稲葉さん: CAS スタッフの熱意を強く感じました.CAS 本部は非常に規模が大きく,機能や専門分野によって別々の部門に分かれています.自分の仕事に誇りを持つ各部門のスペシャリストが集まることで,このような化学情報の権威となる機関が成り立っていると改めて感じました.
    • JAICI: 今回のプログラムで SciFinder や CAS のデータベース作成など,情報検索において新たな知見は得られましたか?
    • 稲葉さん: 考えると当然のことですが,CAS スタッフは膨大な量の論文や特許を処理しているため,タイトルとアブストラクトを見て一分以内に大まかな分類を行っているというのが新鮮でした.論文中の化合物に色や番号をつけて分類する操作等,実際の作業を見ることができたのは興味深かったです.
    • JAICI: ディスカッション以外のアクティビティはいかがでしたか?
    • 稲葉さん: まず,CAS 本部や TechColumbus といった実際に人々が働いている現場を見学できたのは良い経験になりました.一人一人のスペースが広く,個人の仕事環境が整備されている印象を受けました.また,ディスカッションばかりで負担にならないように趣向が凝らされていました.具体的には,グループアクティビティに加え,夕食後は市内の科学博物館 COSI,球場の Huntington Park や Ohio Stadium を見学しました.一日のプログラム終了後にはメンバーとよくバーに飲みに行きました.
    • JAICI: 米国化学会秋季大会では何をされましたか?
    • 稲葉さん: 自分の分野で著名な先生の講演を聞くことができたのは,米国化学会秋季大会ならではだと思います.Mark D. Distefano 教授や Trevor Douglas 教授をはじめとして,蛋白質化学,生物無機化学,生物有機化学の講演を中心に聞きました.また,以前アメリカに短期留学した際にご指導頂いた Christopher J. Chang 教授や,以前知り合ったYi Lu 教授とまたお会いして話ができたのは非常に良かったです.プログラム関連では,企業ブースの SciFinder Skill Builderプログラムに参加したり,他のメンバーの発表を聞きに行ったりしました.夜にはメンバー全員,Peter, Sherri と食事に行きました.
    • JAICI: 米国化学会秋季大会についてご感想をお聞かせください.
    • 稲葉さん: もちろん規模は大きいですが,各会場はそれほど大きくなく,ディスカッションしやすい環境だと感じました.久々に会った先生方が楽しそうに話をするのはどこも変わらないと思います.
    • JAICI: 様々な国の学生との交流はいかがでしたか?良い関係を築けましたでしょうか?
    • 稲葉さん: 移動中や食事中,バー等で色々なことを話すことができました.具体的には,研究内容に加えて,研究室でどんな生活を行っているのか,PhD を取った後の将来設計,自分の国でポジションを取ることの難しさ等です.国は違いますが,境遇が似ていることもあり,すぐに打ち解けて話すことができました.メンバーとは連絡先を交換して,現在も連絡を取り合っています.日本に行ってみたいというメンバーもいて,来るときには連絡をもらって案内することになりました.
    • JAICI: CAS の参加者に対する姿勢はいかがでしたか?
    • 稲葉さん: オーガナイザーである Peter,Sherri をはじめとして,CAS スタッフには大変お世話になりました.皆さんフレンドリーな態度で接して頂いて,非常に快適な時間を過ごせました.お礼としてワインや花束,メッセージボード等のプレゼントをサプライズで渡しました.
    • JAICI: このプログラムを経験したことでご自身の中に変化はありましたか?また今回の経験を,将来どのように生かしていきたいですか?
    • 稲葉さん: 世界中から集まった同世代の参加者と話すことで,彼らと切磋琢磨して世界で活躍できるような研究者になりたいという気持ちが強くなりました.このプログラムで得たつながりを足がかりとして,今後の研究生活を充実させたいです.とりあえずアメリカでのポスドクで経験を積んで,米国化学会年会で発表したいと考えています.また,今まで SciFinder を当たり前のように使っていましたが,それに携わる方の生の声を聞いて,より身近に扱えるようになったと思います.
    • JAICI: 次回のプログラムに参加しようと考えている方にメッセージをお願いします.
    • 稲葉さん: 飛行機やホテル等の旅行の手続きは CAS に全て行って頂けるので,全く負担になりませんでした.他のメンバーと比べても化学の知識はそれほど変わらないので,やはり英語の勉強が最も大切です.私は iCeMS (京都大学物質-細胞統合システム拠点) という英語を公用語としている場所で研究を行っているので,英語には慣れているつもりでしたが,それでもネイティブの聞き取りは難しいときもありました.特にディスカッションでは,全体の流れを把握して自身の意見を発信する必要があるので,聞き取りを強化することが重要になります.それさえ克服できれば,様々な国の方と交流できる素晴らしい経験になると思います.
    • JAICI: 上記項目以外で,強く印象に残ったことをお聞かせください.
    • 稲葉さん: CAS スタッフのプレゼンに日本がよく出てきて,自分が日本人の研究者であることを意識するようになりました.これは世界中から参加者が集まるプログラムに参加して初めて分かったことです.
    • JAICI: プログラムに対するご意見・ご要望などありましたらお知らせください.
    • 稲葉さん: 特に日本人の学生にとって,このように世界中の学生,ポスドクと真剣に話をして深い関係を築くことができる貴重な機会だと思います.自身の研究を見つめ直す良い機会にもなった素晴らしいプログラムでした.一つ要望を挙げるとすると,今回のプログラムに選ばれるのが決まった際には既に米国化学会秋季大会の発表申し込みが締め切られていました.折角の機会ですので,プログラム選出が決定してから学会に申し込みできるような日程にして頂けると,より選択の幅が広がるかと思います.
    • JAICI: どうもありがとうございました.
    • CAS について
    • CAS CAS (Chemical Abstracts Service) は米国化学会 (American Chemical Society) の一部門で,世界各国の科学雑誌,特許,その他資料から化学関連文献の索引・抄録を作成・提供しています.本拠地は米国オハイオ州コロンバスで従業員数は約 1,400 人です.編集スタッフは 600 人おり,うち 400 人が化学もしくは関連分野の博士号を有しています.
      CAS は冊子体 Chemical Abstracts (CA) からオンラインデータベースへと時代に合わせてシステムを進化させながら,世界中の科学者の研究・開発活動をサポートしています.

    ※ 2014 SciFinder Future Leaders in Chemistry プログラムのインタビューは,「化学と工業」2014年12月号「Gallery」欄にも掲載しました.