STN ユーザーインタビュー

日経サイエンス2011年6月号掲載

高機能の科学情報データベースが三位一体の知財戦略を支える
いま企業の成長にはグローバルな知財戦略の構築が不可欠だが
そのためには「知財部門」「研究開発部門」「事業部門」の連携が求められる。
昭和電工では科学情報データベースが調査活動のみならず
情報共有のプラットフォームとして知財戦略をサポートしている。

写真、昭和電工株式会社の社員
昭和電工株式会社(本社:東京都港区)
1926年に創業以来,石油化学事業から無機事業,エレクトロニクス事業まで幅広い領域を手がける総合化学企業として発展してきた。1934年に日本で初めてアルミニウム精錬の工業化に成功するなど,常に新たな領域に挑戦してきた。1989年にハードディスク事業に参入。最新技術の開発による記録密度の持続的向上を成し遂げ,外販メーカーとして世界トップ企業へと成長した。


個性派化学を育てる知財戦略
 昭和電工は,電気炉用黒鉛電極やセラミックを中心とした無機化学から,ハードディスクや高輝度LED(発光ダイオード)などのエレクトロニクス,化学品,アルミニウム,石油化学など幅広い事業領域を持つ総合的化学メーカーである。その技術戦略を一つのキーワードで表現するとすれば「個性派化学」だ。
 研究開発本部研究開発センターの三浦恒正リーダー(技術戦略室兼務,写真後列左)は「汎用品ビジネスで高いシェアを得るのではなく,他社にまねのできない独自技術を開発し,大きなビジネスとして育てていく戦略。昭和電工では2000年以降,技術立社を推進していく上で個性派化学の育成と事業化をR&D戦略・経営戦略としてきた」と話す。例えば,高出力青色チップLED事業への参入,世界初の垂直磁気記録方式ハードディスクの量産などの事業成果のみならず,照明用有機ELやパワーデバイス用SiCエピタキシャルウエハーなど研究開発テーマも加速している。また,三浦リーダーは「長い歴史を持つ電気製鋼炉用人造黒鉛電極事業も,世界的な資源不足が顕在化するなか鉄鋼のリサイクルに欠かせない製品として成長を続けている」という。
 昭和電工の技術戦略を,強力にバックアップするのが知的財産室である。研究開発本部知的財産室情報グループの蕗澤朗リーダー(写真後列右)は「個性派化学をさらに大きく育成するため掲げているのは三位一体の知財戦略だ。研究開発と知的財産室のメンバー間の連携が必要なことはいうまでもないが,現在では製造や営業を担う事業部においても知財を戦略的に用いることが不可欠。これら三つの組織に属するメンバーが知のループで結ばれることで,独創的技術をビジネスチャンスに結びつけることができる」と話す。


写真、田辺千夏氏
情報は知のループの
潤滑剤の役割を担っています

知的財産・研究開発・事業分野の三本柱の「知のループ」を構築する上で,情報を共有することは非常に大事です。同じ情報を共有し,意見を出し合うことによって部門間の意識が一つになります。検索した情報を提供する立場として,三本柱の潤滑剤の役割を担えればいいと思っています。(田辺千夏氏)



質の高い情報を共有する
 蕗澤リーダーは「三位一体の知財戦略を実現するためにまず大切なことは,各組織のメンバー間で質の高い情報を共有すること」だと話す。そして,昭和電工が知的財産室,研究開発センターおよび一部の事業所で共通の情報サービスとして使用しているのが,科学技術分野のデータベースサービスである「STN」だ。
 研究開発センターで技術調査を担当する高仁子氏は「STNではさまざまなデータベースが利用できますが,化学企業での調査活動においては,やはり質の高いCAS(Chemical Abstracts Service)のデータベースが欠かせない」と話す。
 例えば,「STN」で化学物質データベースの世界標準となっている「CAS REGISTRYファイル」と幅広い研究領域の論文・特許情報を収録している「CAplusファイル」を活用することで,研究者が求める情報を高精度かつ効率よく探しだすことができるという。
 知的財産室情報グループで知財調査を担当する田辺千夏氏は「CAS系のデータベースは,知財戦略を構築するための調査でも,もっとも重要なデータベースの一つとなっている。特許情報だけを見ていては,各社の持つ知財の全体像が見えてこない。科学論文や企業の情報を調査に組み合わせていくことが求められる」と話す。
 例えば,A社がある領域で100 件の特許を取得していることが分かれば,そこに企業の戦略の軸があると分かる。将来の特許技術に育つ可能性のある「芽」となる科学論文や報道資料などを組み合わせていくことで,技術戦略のダイナミクスまで読み取ることも可能だ。


写真、高仁子氏
データベースの有効利用が
研究の質を高めます

より質の高い情報検索は,研究の効率アップにも重要です。情報検索の初心者にアドバイスしたいことは,最初に無理だとあきらめないこと。一つのデータベースだけではできることが限られているのは当たり前。複数のデータベースを組み合わせてアプローチするなど,経験を積むことで新たな打開策も見えてきます。(高仁子氏)



ストレスなくデータベースを使いこなす
 共通の情報検索ツールとして重要な役割を担う「STN」は,その検索機能を最大限に引き出すためには多少のスキルを必要とする。そのため,昭和電工ではCAS系のデータベースの利用を必要とする大半の研究者が高い検索スキルがなくても使える「SciFinder」を使い,一方「STN」は一部の研究者や知財担当者が利用している。検索ツールを使い分けている理由について高氏は「どんなデータベースツールでも,入力に対して一定のアウトプットが得られる。しかし,依頼調査が中心の我々は,一定の条件で調査した場合に得られる可能性のある情報を網羅することが求められる」と話す。
 そして,調査の質をより高めるために,昭和電工は2008年からSTNの定額契約を導入している。田辺氏は「現場スタッフにとっては,従量制による調査中のストレスが軽減されたことがありがたい。調査においては,最初から完全な検索式が頭にあるわけではない。アウトプットを見ながら試行錯誤をし,自分で納得のできる結果を出すことが大切だ。途中でコストを意識することは,スタッフのストレス要因のひとつとなってきた。定額契約を導入したことにより情報検索におけるコストパフォーマンスが良くなったのではないか」と話す。
 高氏は「定額契約を導入したことによってSTN AnaVistが利用しやすくなった」と話す。「STN AnaVist」は「STN」の検索で得られた特許と論文の情報をビジュアル的に判りやすく表示するソフトウェアで,これにより技術情報をさまざまな角度で俯瞰することが可能になり,技術戦略を立てるための一つのツールとして使っている。


全社における「知のループ」が広がる
 知的財産室と研究開発センターが同じ条件で同じデータベースを共有することで,お互いが協力し合って調査を行うケースも増えてきたという。例えば,企業の意思決定に必用な重要な調査の場合,共同で徹底的に調査。そして調査内容を多角的に検討するということも行われるようになった。
 田辺氏は「知財・研究開発・事業部の知のループを回すことにおいて,情報は潤滑剤の役割を担っている」と話す。さらに蕗澤グループリーダーは「皆が情報を共有して議論するなかで,新たに見えてくる視点もある。情報の海の中から宝物を発見できる機会も増えてくるはずだ」と話す。
 「技術立社」を掲げる昭和電工にとって「三位一体の知財戦略」が重要な鍵となっているようだ。



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