化学情報協会

BTK 阻害剤を一気に俯瞰:疾患・承認薬・構造・ADMEまで“つながる”探索術【事例紹介】

創薬研究の現場で注目を集める BTK 阻害剤。その探索・設計・評価には、疾患適応から承認薬・臨床試験薬、分子構造、ADME(薬物動態)まで幅広い情報が求められます。本コラムでは、CAS BioFinder を活用した “疾患から構造・ADME まで一気通貫” の探索術をご紹介します。

創薬研究の現場で求められる「一気通貫」の情報探索

がんや自己免疫疾患の治療薬として注目されている BTK 阻害剤ですが、実際に研究を進めるとなると「疾患ごとにどのような薬が承認されているのか」「分子構造の違いはどこにあるのか」「薬物動態(ADME)はどうなっているのか」など、知りたいことや、調べなければならないことが次々と出てきますよね。

 

そんな時に頼りになるのが CAS BioFinder です。


このツールを使えば、疾患から承認薬・臨床試験薬、分子構造、ADME まで、必要な情報を一気に調べることができます。

事例で学ぶ:BTK 阻害剤探索の流れ

1.BTK とリガンドの相互作用を把握するところから調査スタート

BTK(ブルトン型チロシンキナーゼ、Bruton's tyrosine kinase)阻害剤を設計する前準備として、まず BTK とリガンドの共結晶構造を確認しましょう。Protein タブで BTK を検索し、詳細を表示します。これにより、BTK の構造と結合ポケットの特徴が把握できます。

 

さらに、X線結晶構造解析結果が公開されているため、BTK は SBDD(構造ベース創薬:Structure-Based Drug Design)に適したターゲットであることがわかります。
PDB でも検索可能ですが、化学構造ベースの高度な検索には CAS BioFinder がおすすめです。

2.適応疾患と既知薬の確認(ドラッグリポジショニングの起点)

次に BTK に関連する疾患を確認してみましょう。BTK に関連する疾患は、画面の 「Disease」 タブから一覧で確認できます。

この方法は、ドラッグリポジショニングの可能性を素早く探る基本ステップで、覚えておくと便利です。

 

今回は、がん(Cancer)やリウマチ(Rheumatoid arthritis)、多発性硬化症(Multiple sclerosis)など、臨床試験が進行中の疾患も含めて 100 以上の疾患が BTK に関連していることがわかりました。

承認薬・臨床試験薬情報

疾患名をクリックすると DRUGS セクションで承認薬・臨床試験薬の情報に直行できます。
AI Drug Intelligence Summarization を使えば、薬剤の特徴や競合状況の要点を短時間で把握でき、研究計画・社内共有資料の作成に役立ちます。

3.Ligands(結合分子)の構造比較と骨格分析

Ligands タブでは、BTK に結合するリガンドの一覧が表示されます。このリガンド(阻害剤)の構造比較により、活性に寄与する骨格・置換基・修飾許容部位を分析できます。

例:Ibrutinib (CAS RN® 936563-96-1) と Zanubrutinib (CAS RN® 1691249-45-2) を比較すると、中心構造や変異許容部位の違いが見えてきます。

 

骨格ベースの整理には Scaffold と MMPA(Matched Molecular Pair Analysis)が有効で、SAR(構造活性相関)の検討に直結します。

 

上部の “View all associated ligands” から Scaffoldsタブへ切替。弱活性を含むことがあるため、Drug-likeness/ADMEのフィルタで絞り込みましょう。

推奨フィルタ例
  • LogBB ≥ 0(中枢移行性の目安):中枢移行性が高い骨格・置換基を把握。
  • 目的に応じて:分子量、HBA、HBD、Freely Rotatable Bonds、Partition Coefficient (logP)、Molar Refractivity など。

 

2 番目の Scaffold(Ibrutinib(Ligands: 163)のScaffold)を選択したときに表示される画面を次に示します。

 

この置換基のバリエーションをまとめた結果からは、R14 が非常に多く、多様な置換を許容する部位と推測されます。ただし、Ibrutinib は共有結合性の置換基を持つため、その必要性を考慮しつつ SAR を検討します。

MMPA 活用

Get MMPA ボタンを押すと、Matched Molecular Pairs が表示されます。各カラムにポインタを合わせると、活性値と全体構造が同時表示され、置換変化による活性差を直感的に把握できます。

4.ADME・代謝物情報の取得(設計方針の早期確立)

各リガンドの ADME(吸収・分布・代謝・排泄)情報や代謝物の構造を簡便に取得できます。薬物動態や安全性評価の観点から、設計方針を早期に確立できます。

代謝物の確認例

  • Ibrutinib(1番目、CAS RN®: 936563-96-1)
  • ビニルアミド部位が代謝されており、代謝ソフトスポットの可能性。適切な変換で代謝安定性が向上する余地があります。

 

ADME の横断確認例

  • Ibrutinib をはじめ複数の化合物で血漿タンパク結合率が高い傾向。
  • 複数化合物を俯瞰することで、BTK 阻害剤に高結合率が多い特性を把握できます。

5.オフターゲット作用の予測に Predictive Analytics を活用

創薬プロセスでは、標的以外への作用(オフターゲット作用)による副作用リスクを早期に把握することが重要です。

 

CAS BioFinder では Predictive Analytics を実行し、構造情報や既知の生物学的データを活用して潜在的なオフターゲットの可能性を推測できます。例えば、Ibrutinib に対して Predictive Analytics を行い、活性値を予測した結果がこちらです。

 

2025年9月の強化により、予測結果には複数モデルの個別値と実験データの根拠が表示され、実測データとのリンクも追加されました。これにより、"ただの予測" ではなく“信頼できる予測結果” として活用しやすくなっています。

 

さらに、活性値の予測にとどまらず、ターゲットセット全体の作用パターンに加え、ネットワーク情報や実験データを組み合わせることで、作用機序や副作用リスクに関するより深い洞察が得られる可能性があります。

 

このような評価を週単位で行い、その週に合成した化合物を対象に分析すれば、創薬初期から副作用リスクを継続的に把握することが可能です。こうした取り組みにより、開発の効率化と安全性の向上が期待されます。

まとめ

BTK 阻害剤の探索は、疾患・薬剤・構造・ADME といった多層的な情報を“つなげて”考えることが重要です。CAS BioFinder を活用すれば、研究者が知りたい情報に最短ルートでたどり着き、創薬研究の効率化と新たな発見につながります。

CAS BioFinder ならではのメリット

  • 一気通貫の探索体験:疾患から薬剤、構造、ADME までを“つなげて”調べられるため、情報の断片化や手間を大幅に削減。

  • AI による要約・予測:AI が薬剤情報を要約し、活性や副作用の予測もサポート。研究のスピードと質を両立。

  • 直感的な操作性:CAS SciFinderとの連携で、共通 ID によるシームレスな利用が可能。初めての方でも安心して使える設計。

 

CAS BioFinder は、創薬研究者が知りたい情報に素早くたどり着き、効率的な研究推進と新規治療薬の発見を強力にサポートするツールです。BTK 阻害剤に限らず、幅広い分野での活用が期待されています。

 

 

掲載日 2025 年 12 月 16 日