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2018 CAS SciFinder Future Leaders プログラムに参加して

2019 年 1 月掲載

慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻 博士後期課程 千田・佐藤研究室

高橋 芳人 (たかはし よしと) さん

CAS SciFinder Future Leaders は世界中の情報検索に興味があり SciFinderⁿ および SciFinder を日々活用している化学分野の博士研究員・大学院生を対象とした情報交換プログラムです。

CAS 本部にて 2018 CAS SciFinder Future Leaders プログラム参加メンバー (高橋さんは前列左から 5 番目)

米国化学会の情報部門 CAS が主催する 2018 CAS SciFinder Future Leaders プログラムが 2018 年 8 月、米国オハイオ州コロンバスで開催されました。多くの応募者の中から今年も日本の大学院生が選出されました。プログラムに参加した慶應義塾大学の高橋さんに、プログラムについて伺いました。

——高橋さんの研究テーマと SciFinder の普段の活用法を教えてください。

高橋さん: ペプチド修飾を志向したアミド基選択的な還元的求核付加反応の開発に取り組んでいます。複数のアミド結合で繋がったペプチド中の任意のアミド結合が修飾できれば、既存のペプチド医薬品の薬理活性・経口投与能・脂溶性等を向上できると期待しています。

Takahashi, Yoshito; Yoshii, Risa; Sato, Takaaki; Chida, Noritaka. Iridium-Catalyzed Reductive Nucleophilic Addition to Secondary Amides. Org. Lett., 2018, 20 (18), 5705-5708.

Yoritate, Makoto; Takahashi, Yoshito; Tajima, Hayato; Ogihara, Chisato; Yokoyama, Takashi; Soda, Yasuki; Oishi, Takeshi; Sato, Takaaki; Chida, Noritaka. Unified Total Synthesis of Stemoamide-Type Alkaloids by Chemoselective Assembly of Five-Membered Building Blocks. J. Am. Chem. Soc., 2017, 139 (50), 18386-18391.

僕は普段 SciFinder をおもちゃの様に使っています。こんな反応あったらいいな、こんな反応にはどんな試薬を使うのだろう、この構造はどんな原料から作るのだろう、好奇心とその場の思いつきで、Google で気軽にネットサーフィンする感覚で使用しています。

——プログラムに申し込まれたきっかけと動機を教えてください。

高橋さん: Chem-Station で本プログラムの存在を知りました。参加した動機は、面白そうだと直感したからです。世界中から幅広い分野の化学者が集い、話し合い、意見をぶつけ合うのを想像しただけでも楽しそうだと思いました。僕は 『面白いと思ったら何でも挑戦してみる』 をモットーに行動してきたので、挑戦しない理由はありませんでした。

——プログラムへの参加決定後、周囲からどのような反応がありましたか?

高橋さん: 僕がプログラムに参加決定したことを意外と沢山の人が知っており、祝福して頂きました。まさか僕が選ばれるとは思っていなかったので、驚いていました。指導教員の先生方も喜んでくださり、とても嬉しかったです。

——どのようなプログラムでしたか?

高橋さん: 約 2 週間のプログラムでした。前半は米国オハイオ州のコロンバスにある CAS 本社で、プログラムメンバーとディスカッションをしたり、CAS 社員の方々から CAS について説明を受けたり、起業家の方々からリーダーについての講演を受けたりしました。夜は毎晩催し物があり、楽しい夕飯のひとときを過ごしました。後半はマサチューセッツ州のボストンで、米国化学会年会 256th ACS National Meeting & Exposition に参加しました。この学会は参加者が 14,500 人にも及ぶ世界最大級の化学系の学会であり、広大な展示場と周辺のホテルが会場として使用されていました。あまりにも巨大な学会だったため、初日は目的の会場を見つけるだけでも一苦労でした。世界最大級の学会ということもあり、世界中の著名な先生方の講演を聞くことができ、大変勉強になりました。

——参加メンバーについて教えてください。

高橋さん: 今回のプログラムの参加者は 30 名おり、約半分が博士課程の学生で、もう半分がポスドクでした。有機合成化学、有機金属化学、高分子化学、生化学、薬学、化学工学、環境化学、量子化学等、多種多様な分野の人が参加されていました。皆さんそれぞれモチベーションがとても高く、将来は祖国で自分の研究室を持ちたいとおっしゃっている方が多かったです。

——どのようなディスカッションが行われましたか?

高橋さん: ACS のサービス、論文の執筆方法、ピアレビューのシステム、情報のインプットやアウトプットの方法、リーダーとしてのあり方等、様々なトピックについてディスカッションしました。講義形式の様なものもあれば、いくつかのグループに分かれてその中で意見をまとめて発表する形式のディスカッションもありました。グループ分けは多くの場合ランダムで行われましたが、博士課程の学生とポスドクで分かれることもありました。ディスカッションの司会は CAS のスタッフや講演者の方が務めてくださいました。各議題についてそれぞれ 1 時間ほど時間が設定されており、色々なトピックに触れることができました。各議題とも議論は白熱し、参加者一人一人が自分の意見と信念を持っていることを強く感じました。

——ディスカッションで印象に残っているトピックスをご紹介ください。

高橋さん: 最も印象に残っているディスカッションに、新しいビジネスを考案し、それを投資家役の人達の前でプレゼンするというものがあります。Shark Tank というアメリカの TV 番組を模したもので、6 人ずつのチームに分かれて新規ビジネスを練りました。プログラムの初日に実施したので、参加者同士で打ち解ける良いきっかけにもなりました。はじめに新規ビジネスを立案する上で大事な知識や考え方についての講義がありましたが、研究にも通じる点も多く勉強になりました。各班が考案したビジネスはいずれも、魅力的かつ社会への貢献度が高く、最先端の科学者達が何に興味を持ちどんなアイディアを持っているかを知ることができました。

——ディスカッションで、高橋さんにとって新たな発見はありましたか?

高橋さん: ピアレビュー (査読) についての意見を聞く機会があまり無かったので、とても新鮮でした。参加者の約半分がポスドクということもあり、ピアレビューの問題点について熱い議論が交わされました。シングルブラインドとダブルブラインドの利点と欠点、ジャーナル誌ごとのレビュアーの意見が尊重される度合い、文法訂正の大変さ等、新たな発見がありました。このディスカッションを通してレビュアーがどこに重点を置いているのかが見えてきて、今後の論文執筆の際に役立つと思いました。

——CAS スタッフとのディスカッションについて、どのような印象を持たれましたか?

高橋さん: CAS スタッフ一人一人が化学を発展させよう、そして発展に貢献しようという熱い情熱を持って仕事に取り組んでいることが伝わってきました。特に情報の重要性を強く認識されていて、その入力には最大の注意を払っていました。自分達が作るデータベースに自信と誇りを持っていたことが印象的で、とても信用のおけるデータベースであると感じました。

——今回のプログラムで SciFinder や CAS のデータベース作成など、情報検索において新たな知見は得られましたか?

高橋さん: CAS の新製品である SciFinderⁿ について知ることができました。SciFinderⁿ の最も画期的な点は、アルゴリズムを用いて検索機能を向上させている点だと思います。従来の SciFinder の使用者は、論文検索に 40%、論文を実際に読んで自分が必要としている情報があるかを判断するのに、そのうちの 60%の時間を使用しているそうです。SciFinderⁿ では、AI により検索でヒットした論文がどれくらい自分の検索内容と一致するかを評価でき、自ら論文を読んで評価する時間を節約できると知りました。SciFinderⁿ を使用すれば今まで以上に効率的な情報検索が可能になると感じました。

——ディスカッション以外のアクティビティはいかがでしたか?

高橋さん: CAS 本社の施設案内や同州にある州立大学や病院を見学できました。中でも CAS 本社にあるデータセンターの様子は圧巻でした。また CAS のオフィス内にパズルスペースがあるのも印象的でした。部署やチーム関係なく、色々な人がそこに集まり気分転換をしながら会話をし、新たなアイディアやプロジェクトが生まれるそうです。とても良い仕組みだと思いました。

——米国化学会秋季大会では何をされましたか?

高橋さん: 有機合成化学に関する講演を主に聴講しました。日本を含め世界中から著名な先生方による講演も多く、非常に刺激を受けました。また、2016 年にノーベル化学賞を受賞されたSir James Fraser Stoddart 教授ともお話する機会を頂くことができ、大変光栄でした。

——米国化学会秋季大会についてご感想をお聞かせください。

高橋さん: 沢山の興味深い講演を聞くことができましたが、一番衝撃を受けたのが有機化学のポスターセッションです。ポスター会場ではビールとナチョスが振る舞われ、生バンド演奏が響き、学会参加者が踊っていました。そんな会場でビールを片手に興味が惹かれたポスターの前でディスカッションをするという、今まで参加した中で最高のポスターセッションでした。

——様々な国からの参加者との交流はいかがでしたか?良い関係を築けましたか?

高橋さん: 各国の方々ととても良い交流関係を築くことができました。自己紹介の際に、名前と自分を表すポーズをする (野球でバットを振る、ギターを弾く等) というゲームをしました。その際に、大好きな 『ジョジョの奇妙な冒険』 の漫画に登場するポーズをしたら大変好評で、そのお陰で参加者全員とすぐに仲良くなれました。プログラム中は化学の話から雑談まで沢山話す時間があり、お互いをよく知ることができました。プログラム終了後も参加者の一人とボストンやニューヨーク観光をしたり、日本に来日した参加者と日本観光をしたりと友好関係は続いています。論文がアクセプトされたり、日本学術振興会の特別研究員に採択されたりした際にも、沢山のお祝いメッセージを頂きました。

——CAS の参加者に対する姿勢についてお聞かせください。

高橋さん: 参加者は VIP 待遇をして頂きました。移動費、宿泊費、食費の全てを負担してくださり、何一つ不自由することはありませんでした。世界中の化学者を繋ぎ合わせることで、人類全体の科学の発展に貢献しようという CAS の意気込みを感じました。飛行機での移動日に僕の誕生日があり、誕生日を空の上で祝って頂きました。一生にまたとない特別な誕生日をプレゼントしていただき、とても感謝しています。

——本プログラムを経験したことで、高橋さんご自身の中に変化はありましたか? また今回の経験を、将来どのように生かしていきたいですか?

高橋さん: プログラムに参加し、コネクションとコラボレーションの重要性を実感しました。ディスカッションの度に自分では想像つかないようなアイディアが沢山出てきたのを体感し、幅広い分野の人と知り合い、ディスカッションを重ねれば、新たな科学の創造に繋がると確信しました。今回のプログラムで得たかけがえのない人脈を将来活かし、微力ながら科学の発展に貢献したいと思います。

——次回プログラムに参加しようと考えている学生・博士研究員にメッセージをお願いします。

高橋さん: 迷ったら応募しましょう。迷わなくても応募しましょう。CAS SciFinder Future Leaders プログラムにはそれだけの魅力と価値があります。本プログラムの一番の魅力の一つが、世界中の幅広い化学者達との人脈を作れることだと思います。情報社会が発達し、人脈を広げることは昔よりも容易になりました。しかし、それでも私達が生きているのは物質社会であり、実際に会って顔を合わせ、話し合わない限り真の人脈は築けないと思います。その架け橋となりうるのが本プログラムであり、そこで得られた人脈は、領域をまたいだ研究の重要性が増す昨今の研究トレンドにおいても大きな助けになると思います。

——そのほかにも強く印象に残ったことなどがございましたら教えてください。

高橋さん: CAS の Editor の方と話す機会があり、「日本の大学が投稿する論文について改善点やアドバイスがあれば教えて欲しい」 と伺いました。すると彼は、日本の論文はとても分かりやすく、Supporting Information も信用できるため、特に問題点や改善点は無いと教えてくださりました。また、日本はどの大学から投稿される論文もある一定水準に達していて素晴らしいとお褒めの言葉を頂きました。彼の言った 「Publish with Pride」 10 年後に読んでも満足できる論文を書きなさいという言葉を胸に研究に励みたいと思います。
プログラムと直接関係はありませんが、自分以外の参加者全員が修士課程から給料を貰って研究していることが意外でした。他のプログラム参加者に日本では修士課程の学生も博士課程の学生も学費を払って無給で研究していると伝えたら、非常に驚かれました。グローバル化をうたっているにもかかわらず、日本と世界の間には研究に対する意識の差がこれ程あると知り、とてもショックでした。

——プログラムに対するご意見・ご要望などありましたらお知らせください。

高橋さん: もし可能であれば ACS National Meeting で発表する機会が欲しかったです。プログラム参加決定以前に発表申込みが完了してしまい、申込みできませんでした。また、ディスカッションのトピックとして、もっと化学的なものもあっても良かったのかなと思いました。地球全体の問題や新技術について取り上げ、メンバー全員で様々な視点からアイディアを出してみたかったです。

JAICI: どうもありがとうございました。

CAS について

CAS (Chemical Abstracts Service) は米国化学会 ACS (American Chemical Society) の一部門で、世界各国の科学雑誌、特許、その他資料から化学関連文献の索引・抄録を作成・提供しています。本拠地は米国オハイオ州コロンバスにあります。
CAS は冊子体 Chemical Abstracts (CA) 時代より蓄積した科学技術関連情報を様々な形で社会に提供し、世界中の科学者の研究・開発活動をサポートしています。