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2016 SciFinder Future Leaders プログラムに参加して

2017 年 1 月掲載

東京大学大学院理学系研究科化学専攻 博士後期課程 革新分子技術総括寄付講座(中村研究室)

吉田 拓未 (よしだ たくみ) さん

SciFinder Future Leaders は世界中の情報検索に興味があり SciFinder を日々活用している化学分野の博士研究員・大学院生を対象とした情報交換プログラムです。

CAS 本部にて 2016 SciFinder Future Leaders プログラム参加メンバー (吉田さんは 2 列目右から 4 番目)

米国化学会の情報部門 CAS が主催する 2016 SciFinder Future プログラムが 2016 年 8 月、米国オハイオ州コロンバスで開催されました。多くの応募者の中から2人の日本の大学院生も選出されました。プログラムに参加した東京大学の吉田さんに、プログラムについて伺いました。

——吉田さんの研究テーマとSciFinderの利用方法を教えてください。

吉田さん: 鉄触媒を用いた新規反応の開発が研究テーマです。SciFinderは原料の合成法検索や、合成した化合物データの照合、また発見した新規反応の新規性を確かめるために反応検索や文献検索などに利用しています。

Ilies, L.; Yoshida, T.; Nakamura, E. Iron-Catalyzed Chemo- and Stereoselective Hydromagnesiation of Diarylalkynes and Diynes. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 16951-16954.

Ilies, L.; Yoshida, T.; Nakamura, E. Synthesis of Polysubstituted Enynes via Iron-Catalyzed Carbomagnesiation of Conjugated Diynes. Synlett 2014, 25, 527-530.

——プログラムに申し込まれたきっかけと動機を教えてください。

吉田さん: Chem-Station で毎年案内が出ているのでプログラムのことは学部生の頃から知っていました。
研究室の都合で今年の4月頃は全く実験ができず応募する時間的余裕があったこと、また国際的なコネクションや将来のための実績を作るのにも良い機会であること、加えて今までアメリカに行ったことがなかったので、単純に行ってみたかったことなどいくつかのきっかけがあって応募しました。

——プログラムへの参加決定後、周囲からはどのような反応がありましたか?

吉田さん: 内緒で応募していたので、参加決定後は特に大学の関係者から大変羨ましがられました。後輩などは来年応募したいという反応もありました。友人からはおみやげよろしくとお願いされました。

——11日間のプログラムのスケジュールを教えてください。

吉田さん: 前半はCAS本部で講義やグループディスカッションなどを行いました。新製品のSciFinderⁿの体験や、サーバールームの見学など多岐に渡るプログラムが用意されていました。
また、それぞれの日の昼食や夕食にはCASのスタッフの方々が参加されコミュニケーションを取ることが出来ました。後半は米国化学会秋季年会に参加しました。

——どのような方が参加されていましたか?

吉田さん: ポスドクの方、もしくは博士を9月で取る方など年上の方が多かった印象で既婚者も多く、日本との違いを感じました。専門領域は、有機化学が多かったですがコンピューター化学や物理化学等様々な専門領域を持つメンバーが参加していました。ポスターセッションを見る限り、研究のレベルも高かったです。また、英語が母語の方や留学経験が有る方など英語が上手な方が非常に多く、聞き取りで非常に苦労しました。

——どのようなディスカッションが行われましたか?

吉田さん: 主に2パターンありました。
1つは講義の途中に意見をある人が手を上げてディスカッションを行う形式。特にグループを分けるのではなく、意見のある人がどんどん意見を言っていきます。日本のディスカッションとは異なり、非常に白熱した議論がかわされていたように思います。
2つ目は講師がグループを作りディスカッションを行う形式。20分ほどのディスカッションで2人から10人程度までメンバーの数も増減しました。基本的にメンバーのみがディスカッションを行い、講師陣は外から見ているという形でした。こちらも非常に白熱していました。

——ディスカッションで印象に残っているトピックスをご紹介ください。

吉田さん: ディスカッションとは少し違うかもしれませんが、SciFinderⁿの体験会において、メンバーが矢継ぎ早に改善点を指摘していたことが印象に残っています。私自身は現行のSciFinderに大きな不満は感じていなかったのですが、言われてみれば確かにと思う内容が多く、各メンバーが強いモチベーションや問題意識を持って本プログラムに参加していることを感じました。

——ディスカッションで、御自身にとって新たな発見はありましたか?

吉田さん: やはり、SciFinderのデータベースがほぼ手作業で入力されているという点に驚きました。参加者の反応も同様で、むしろなぜ一部機械化しないのかという意見が多かったように感じました。また、SciFinderの開発者の業務環境も知ることができました。

——CASスタッフとのディスカッションについて、どのような印象を持たれましたか?

吉田さん:CASスタッフはSciFinderをよりよいものにするために、本気で意見を求めているということを強く感じました。意見交換において、各メンバーが様々な改善点を指摘していましたが、それを真摯に受け止め改善していきたいという思いを感じました。

——今回のプログラムでSciFinderやCASのデータベース作成など、情報検索において新たな知見は得られましたか?

吉田さん: 今回のプログラムを通じて情報検索において限られた機能しか利用していなかったことを改めて認識しました。講義において、おすすめの検索方法等教えていただいたので活用していきたいです。また、CASのデータベース作成においてほぼ全てを手作業でやっていたことには非常に驚きました。確かに手作業でなければ難しい点があるのは同意できますが、一部は機械の手で行い、それを人間が手作業で修正及び調整するという形をとっていると思っていたので、予想を裏切られました。

——ディスカッション以外のアクティビティはいかがでしたか?

吉田さん: 特に心に残ったアクティビティが2つあります。1つはベンチャーインキュベーションの見学です。ベンチャー企業に興味があったものの、私の専門分野である有機化学分野でベンチャー企業をやっていくのはなかなか難しいと感じていたのですが、数は少ないながらも成功している有機化学分野のベンチャー企業があるとのことで、やはり何事もアイディア次第ということを強く印象付けられました。
2つ目はハンティントン・パークでのディナーです。個人的に野球が好きというのもあり、また3Aの試合という貴重な試合を観戦することが出来ました。

——フィラデルフィアで開催された米国化学会秋季年会はいかがでしたか?

吉田さん: 日本の学会と同様に、講演を聞いたりポスターセッションに参加したり、エクスポジションに参加したり、空き時間に観光したりと、満喫できました。

——米国化学会秋季大会についてご感想をお聞かせください。

吉田さん: 日本と同様に、講演自体は論文において既に発表されているものが多く、既視感があるものが多かったです。日本と異なり質疑応答があまり重要視されていないと感じました。発表自体が終わると席を立つ参加者が多かったです。また、参加者はスタッフ、ポスドクが中心であり、日本の討論会に近い雰囲気を感じました。思ったより日本人が多かった印象もあります。

——様々な国からの参加者との交流はいかがでしたか?良い関係を築けましたでしょうか?

吉田さん: CASの方々が意識的に様々な国から参加者を選んでいるのか、交流は非常に楽しかったです。それぞれの国で状況は違っていて、日本が比較的恵まれていると感じました。

—— CAS の参加者に対する姿勢はいかがでしたか?

吉田さん: 先にお話しした通り参加者に対して真摯に向き合っている姿勢が伝わってきました。

——このプログラムを経験したことでご自身の中に変化はありましたか?また今回の経験を将来どのように生かしていきたいですか?

吉田さん: 将来一度は海外で働いてみたいと思うようになりました。文化の違いは楽しいし、言語の壁が大きな問題になると思いますが、化学という共通言語があれば問題ないと思いました。将来海外で働く上で、今回得たコネクションは大きな助けになると思うのでその点これから活かしていきたいです。

—— 次回のプログラムに参加しようと考えている学生・博士研究員にメッセージをお願いします。

吉田さん: 今年は日本からは2人参加できたということで、参加できる可能性が大きいと思います。国際的なコネクションを作るという点で大きな意味があると思いますし、SciFinder製作の裏側を見れたり、なかなか参加できない米国化学会秋季年会に参加できるという点で大きな価値があると思います。また非常に待遇もよく、賞金1,000ドル頂けますが、普通にプログラムに参加していると自腹を切ることはほぼありませんし、SciFinder特別グッズも大量に貰え、個人旅行では泊まることの出来ないホテルにも泊まれるということでCASの本気を垣間見ることができました。私は留学経験があるわけでもありませんし、英語はむしろ苦手な方でしたが、参加者に選ばれることが出来ました。英語に自信がなくても、とりあえず応募してみることをお勧めします!

——上記項目以外で、強く印象に残ったことなどはありますか?

吉田さん: アメリカ以外で同一の国から複数名メンバーとして選ばれていたのが日本とイギリスだけでした。CASが日本を重要視している、もしくは日本からの応募者が多かったのではないかと推測でき、どちらにしても喜ばしいことだと思いました。

——プログラムに対するご意見・ご要望などありましたらお知らせください。

吉田さん: これは難しいとは思いますが、せっかく米国化学会秋季年会に参加できるのでポスター発表でもよいので参加できるようにして欲しいです

JAICI: どうもありがとうございました。

CAS について

CAS (Chemical Abstracts Service) は米国化学会 (American Chemical Society) の一部門で、世界各国の科学雑誌、特許、その他資料から化学関連文献の索引・抄録を作成・提供しています。本拠地は米国オハイオ州コロンバスで従業員数は約 1,400 人です。編集スタッフは 600 人おり、うち 400 人が化学もしくは関連分野の博士号を有しています。 
CAS は冊子体 Chemical Abstracts (CA) からオンラインデータベースへと時代に合わせてシステムを進化させながら、世界中の科学者の研究・開発活動をサポートしています。