化学情報協会

OPR&D 25年の解析から読み解くプロセス化学のトレンド

コラムでは、CAS SciFinder のユーザーの方を対象に、検索に関するお役立ち情報や、ちょっとした豆知識を提供します。今回は、Organic Process Research & Development 誌に掲載された 25 年分の論文を解析した結果「Decoding Reactions in Process Chemistry: A Quarter-Century Analysis of Trends and Transformations in OPR&D」を題材に、プロセス化学の現場で「実際に選ばれてきた反応・条件」について考えてみたいと思います。

25年分の論文解析で見えたプロセス化学の実像

2026年3月、Organic Process Research & Development (OPR&D) 誌に、CAS の研究者が中心となって執筆した「Decoding Reactions in Process Chemistry: A Quarter-Century Analysis of Trends and Transformations in OPR&D」という論文が掲載されました。

 

この論文では、OPR&D 誌に掲載された過去 25 年分の論文をもとに、4,800本以上の論文、34,000件を超える反応データから、プロセス化学分野の動向がまとめて分析されています。この論文は Open Access になっており、どなたでも無料で閲覧できることから、本コラムではその内容を紹介しつつ、CAS SciFinder を使った情報の読み取り方について見ていきます。

OPR&D 誌とは

Organic Process Research & Development 誌 (OPR&D) は、ACS (米国化学会) が発行する有機合成プロセス開発を中心しとしたプロセス化学・製造化学を専門に扱う学術雑誌です。1997 年の創刊以来、実務に近い研究成果が多く掲載されてきました。

 

掲載論文には「スケールアップ可能か」「再現性があるか」といった、現場での使いやすさが重視されるケースも多く、企業研究者からの投稿が多いことでも知られています。

論文で目立つ反応、現場で使われる反応

論文数の多さ=実務での使いやすさではない

25 年分の論文データの分析から、文献で注目されやすい反応と、プロセス化学の現場で実際に使われている反応には違いがあることが示されています。

 

たとえば、鈴木カップリングに代表されるクロスカップリング反応は論文数が多く、研究トピックとして目立っています。

一方、実務の現場では、アシル化やアルキル化といった基本的な変換反応が最も頻繁に用いられているようです。

 

 

図:OPR&D 誌に掲載された研究論文を、CASの索引情報に基づいて集計した反応タイプ別件数(A) クロスカップリング反応(B)  ハロゲン化反応 (C)
図:OPR&D 誌に掲載された論文に報告されている反応タイプの分布

 

出典: Decoding Reactions in Process Chemistry: A Quarter-Century Analysis of Trends and Transformations in OPR&D 
(https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.oprd.6c00001?ref=pdf, Figure 3, Figure 4)

CAS SciFinder の反応検索結果例

この違いは、CAS SciFinder を使った検索でも確認できます。
たとえば反応検索で「アシル化」「クロスカップリング」といった反応タイプを指定すると、それぞれの反応がどの年代に、どの程度の頻度で使われているかを比較できます。

 

CAS SciFinder の反応レコードでは、

・反応タイプ

・試薬・触媒・溶媒

・反応条件 (温度、反応時間など)
といった条件が整理されて表示されるため、論文タイトルだけでは見えない実務寄りの使われ方を把握できます。


こうした違いを具体的なデータとして捉えられる点が、文献検索を次の検討につなげる上で重要になります。

 

 

図:CAS SciFinder における鈴木カップリング反応検索結果表示例

(雑誌論文を対象に、鈴木カップリング反応をスキーム単位で表示した検索結果例。同一反応スキームについて、使用されている触媒、溶媒、反応条件、収率を一覧で比較できる。)

生産現場で選ばれているプロセス化学反応とは

反応タイプの違いに加えて、プロセス化学ではどの条件が選ばれているかも重要な判断材料になります。
ここでは、論文データから見えてくる生産現場で実際に採用されている条件に注目します。

溶媒

OPR&D 誌に報告された反応で使用されている溶媒の傾向を見るため、単一段階反応(多段階反応は最初の1段階のみ)に限定して分析が行われています。これは、後処理で用いられる溶媒の影響を除くためです。


その結果、反応の 67% は単一溶媒で実施されており、プロセス化学の現場では溶媒を極力シンプルに選ぶ傾向が見られます。使用頻度が高いのは、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)、アセトニトリル、DMF といった極性非プロトン性溶媒です。

 

 

図:OPR&D誌に報告された反応溶媒の解析結果

出典: Decoding Reactions in Process Chemistry: A Quarter-Century Analysis of Trends and Transformations in OPR&D 
(https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.oprd.6c00001?ref=pdf, Figure 8A)

 

米国環境保護庁(EPA)は、テトラヒドロフラン(THF)とジクロロメタン(DCM)の両方を発がん性を持つ溶媒として特定していますが、この結果からは、これらの溶媒はプロセス化学において依然として広く使用されていることが分かります。その背景には、優れた操作性に加え、代替溶媒のコストやサプライチェーン上の制約といった実務上の要因があると考えられます。

触媒

パラジウム系触媒を用いた反応が長年にわたり重要な位置を占めてきたことが分かります。特にクロスカップリング反応では、Pd 触媒が一貫して多く報告されており、プロセス化学において実績と信頼性の高い触媒系が継続的に選択されていることがうかがえます。


一方で、ニッケルなどの代替金属触媒を用いた反応も報告されていますが、論文全体に占める割合は限定的であり、新規性よりも、反応機構やスケールアップ時の挙動が十分に理解された触媒系が重視されている傾向が見られます。

 

図: OPR&D 誌に掲載された反応で使用されている触媒

出典: Decoding Reactions in Process Chemistry: A Quarter-Century Analysis of Trends and Transformations in OPR&D 
(https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.oprd.6c00001?ref=pdf, Figure 9)

反応条件

 

反応条件に注目すると、極端な低温や高圧条件よりも、中程度の加温条件で、短時間かつ高収率を目指す反応が多く報告されています。

これは、OPR&D 誌がプロセス化学を主対象としていることを反映し、安全性やスケール適性を考慮した条件設計が重視されているためと考えられます。

 

論文データから見えてきたプロセス化学で好まれる反応条件の傾向は以下の通りです。

 

● 収率:高収率(90%以上)が多い

● 反応時間:比較的短時間(数十分〜1時間程度)

● 温度:中温域(おおよそ50〜100℃)

● 圧力:常圧下が多い(水素化反応などを除く)

 

CAS SciFinder では、こうした条件選択の傾向を、個々の反応レコードとして具体的に確認できるため、同じ反応タイプでも、使用されている溶媒や触媒、温度条件を並べて見ることで、「実際にはどの条件がよく採用されているのか」が見えてきます。

 

条件検討に迷った際、過去の成功例が集中している条件を把握しておくことは有効な手がかりとなります。
CAS SciFinder を通じて文献データを整理することで、経験則に頼らない、根拠に基づいたプロセス設計につなげることができます。

まとめ

OPR&D 誌に掲載された論文の分析から、プロセス化学では、新規性よりも安全性、再現性、スケール適性を重視した反応・条件が一貫して選ばれてきたことが分かりました。

 

今後、プロセス化学の現場では、Pd 触媒に代わる信頼性の高い触媒系が確立されれば、大きな転換期を迎える可能性があります。コストや金属残留、持続可能性といった課題を背景に、代替触媒への期待や関心は高まりつつあります。

 

同様に、THF、DCM 、DMF といった溶媒についても、環境や安全性の観点から課題が指摘されています。一方で、現時点では操作性や供給面の理由から、引き続き使用されている実態も見られます。今後、代替品の実用性やサプライチェーンが整うことで、条件選択の判断基準は徐々に変化していく可能性があります。

 

このように、プロセス化学における条件選択は、新技術の登場と実務上の制約とのバランスの中で変化していくと考えられます。CAS SciFinder を通じて文献動向を継続的に把握することは、そうした変化の兆しを捉える上でも有効です。

 

また、条件検討に迷った際に、過去の成功例が集中している条件や組み合わせを把握することは、効率的なプロセス設計につながります。

文献データを「読む」だけでなく「使う」視点で整理することが、実務に即した判断を支える一助となるでしょう。

参考文献

 ACS Publications, 2026, ”Decoding Reactions in Process Chemistry: A Quarter-Century Analysis of Trends and Transformations in OPR&D”, ACS Publications ホームページ (2026年3月19日取得, https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.oprd.6c00001?ref=pdf)

 

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掲載日 2026 年 3 月 23 日