化学情報協会

「ヒットしない」を解決!CAS SciFinder で MOF を確実に探すコツ

コラムでは、CAS SciFinder のユーザーの方を対象に、検索に関するお役立ち情報や、ちょっとした豆知識を提供します。本コラムでは材料科学の分野で注目されている MOF(金属有機構造体)をテーマに、CAS SciFinder のデータベースの裏側と、検索漏れを防ぐためのコツをご紹介します。

なぜ MOF の検索は難しいのか?

金属イオンと有機リンカーの配位結合によって、規則的な多孔質ネットワークを形成するMOF(多孔性金属有機構造体)。ガス吸着や分離、触媒、さらには医薬品キャリアにいたるまで、材料科学の最前線で研究が進められています。

 

しかし、いざ CAS SciFinder で目的の MOF を調べようとすると、3 次元の結晶構造をどのように作図すればよいのか疑問に思ったことはないでしょうか。

 

実は、CAS SciFinder における MOF の検索をマスターする鍵は、「CAS が複雑な配位高分子をどのようにデータとして定義(登録)しているか」というデータベースの設計思想(登録ルール)を理解することにあります。この登録ルールを正しく理解していないと、思わぬ検索漏れの原因になります。

知っておくべき CAS SciFinder の MOF 登録ルール

MOF を考えるとき、研究者の頭に浮かぶのは無限に連続するジャングルジムのようなトポロジー構造ではないでしょうか。

金属イオンと有機分子の配位結合によって形成される多孔性材料である MOF は、学術的には配位ポリマーの一種として扱われています。

 

しかし、CAS SciFinder(CAS REGISTRY)の原点は、結晶構造データベースではなく、あくまで化学物質のデータベースです。

CAS 独自の化合物登録ルールでは、MOF は下記の①または②のルールに則って収録されます。

 

①配位化合物として配位化合物ルールに基づいて登録される

②塩として登録される

 

つまり、“研究者/検索者のイメージ“ と “CAS の登録ルール“ のギャップを掴むことが、検索漏れを防ぐ最大のポイントです。

① キレート・複数の配位子を持つ MOF(例:UiO-66)は「配位化合物」

ジルコニウムとテレフタル酸からなる代表的な MOF「UiO-66」などのケースです。

 

登録のルール:一般的な「配位化合物(Coordination Compound)」として登録されます。

 

ポイント:配位化合物として登録される場合は、構造を表現するための最小の繰り返し単位で登録されます。

② キレート・複数の配位子を持たない MOF(例:ZIF-8)は「塩」

亜鉛と2-メチルイミダゾールからなる「ZIF-8」などのケースです。

 

登録のルール:「塩(Salt)」として登録されます。

 

ポイント:「●1/2 Zn」のように組成比が登録されます。

 

 

💡 ここが面白い:CASの設計思想

 

CAS SciFinderでは、多くの場合「成分(コンポーネント)ごとに分離され、金属と非金属の結合は配位結合で表記する」のが大原則です。つまり、巨大なネットワークを描く必要はなく、「どの金属と、どのリンカーが、どんな比率で関わっているか」という構成要素の最小単位が登録のベースになっています。

実践!MOFをスマートに探す検索テクニック

配位結合は単結合で作図する。電荷は指定/作図しないで OK

配位化合物の作図で、多くの研究者や学生が悩むのが、「金属の価数や電荷、配位結合をどのように作図すればよいのかわからない」という点ではないでしょうか。

 

しかし、「きちんと作図しないとヒットしないのでは?」と不安になる必要はありません。
CAS SciFinder の構造検索システムは、ユーザーが描画した構造を幅広く解釈し、目的の配位化合物をヒットさせることができるようになっています。

 

コツ①:電荷(チャージ)を指定した作図をしなくても検索できます。

コツ②:配位数を指定したい場合は、結合を作図してください。

注意点:金属と配位子(の一部)を同じ作図画面中に作図し、結合を描かずに検索するのも有効です。ただし、離して作図すると配位数は指定されません。

作図例

例えば、代表的なルテニウム錯体であるトリス(2,2'-ビピリジル)ルテニウム(II) (CAS RN®:15158-62-0) は、下図の左側の3種類の作図のいずれを用いた場合でも探すことができます。

名称は候補から選ぶ

UiO-66 のようなハイフン等が含まれる名称を検索する際は、ハイフンの有無や官能基による派生名への対応が重要です。

思うような検索結果が得られなかったときは、Advanced Search > Substances 画面で候補としてリストアップされる化合物名を見てみましょう。

 

候補のリストを見れば、ハイフンの代わりにスペースで登録されている名称「UiO 66」しかデータベース中には存在しないことがわかりますので、今回の場合は UiO 66 を検索します。

 

UiO-66-OH のようにハイフンが含まれている名称もありますが、これはテレフタル酸に OH 基が付いている別の物質ですから検索に用いないでください。

 

 

 

💡 ここが面白い:MOF 世界のネーミング

 

このセクションで紹介した MOF は「UiO-66」 と呼ばれています。ジルコニウムクラスターを有する MOF でありながら、なぜ Zr-66 といった元素記号に由来する名称でないのでしょうか。

 

実は、MOF の命名には、元素名ではなく、「開発された大学・研究所の頭文字 + 開発番号」を用いるトレンドがあります。UiO はノルウェーのオスロ大学(Universitetet i Oslo)の頭文字です。そう考えると、開発番号が大きいほど研究室の歴史や、努力の積み重ねがずっしりと感じられませんか?

 

ほかにも、次のような名称の MOF が広く知られています。

MIL-101 : ヴェルサイユ大学の研究所(Matériaux de l’Institut Lavoisier)の 101 番

HKUST-1 : 香港科技大学(Hong Kong University of Science and Technology)の 1 番

ZIF-8 : 結晶構造(Zeolitic Imidazolate Framework)に由来する名称

便利なフィルター機能で絞り込む

大まかに作図して幅広くヒットさせた後は、化学物質のフィルター (属性) を使って、効率よく回答を絞り込みましょう。

ここで使っていただきたいテクニックが、前述した MOF の知識と CAS の化学物質登録ルールです。

 

構造検索の後に、以下のフィルターを使うと目的のMOFへ素早くアクセスできます。

 

Number of Components(成分数)フィルター:成分数を指定して、単一の化合物か、多成分物質かを絞り込めます。

 

Substance Class(物質分類)フィルター:「Coordination Compound(配位化合物)」を指定することで、その他を一瞬で排除し、目的の MOF 群へ一気に絞り込めます。

まとめ

無限の可能性を持つ多孔性材料 MOF。最新知識だからこそ、その検索にはデータベース側の理解が欠かせません。

 

MOF の検索を成功させる鍵は、システム側(CAS)の登録ルールを理解し、大まかに作図してフィルターで賢く絞り込むことです。

これらをマスターすれば、日々の文献調査や新規材料の設計が劇的に効率化します。ぜひ次回の検索からお試しください。

 

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この記事は CAS SciFinder の検索方法の提供ではありません。CAS SciFinder を使った情報検索の参考になるような収録データに関する情報や、ちょっとした関連知識を提供する記事です。CAS SciFinder の検索方法や操作については以下のページをご覧ください。

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掲載日 2026 年 5 月 19 日