化学情報協会

生成 AI の誤りを CAS SciFinderで見抜く:最強の“検証コンビ”活用術

コラムでは、CAS 製品のユーザーの方を対象に、検索に関するお役立ち情報や、ちょっとした豆知識を提供します。本稿では、今後の研究スタイルの“標準形”となりつつある〈生成 AI の発想力 × CAS SciFinder の精密なデータ検証〉という組み合わせによって、誤情報を回避しながら効率的に調査を進めるためのヒントをご紹介します。

なぜ “生成 AI の誤り検証” が必要なのか

生成 AI は、反応経路のアイデア出しや、大量の文献の要約・分析によって研究者の思考を加速してくれます。一方で、“もっともらしい誤情報” を生成してしまうという弱点もあります。特に、反応条件、立体化学、化学物質名、書誌情報など、化学分野特有の専門的で細かい情報は、わずかな違いで意味が変わるため、誤りに気づきにくい点が問題です。

例えば、生成 AI が “ありそうな文献” を自信満々に提示しても、実際にはその文献が存在しなかったり、存在していても中身が合致していなかったりします。また、化学的に不可能な構造式を “自然な IUPAC 名”で示してくることもあります。また、「室温・無触媒・高収率」など、“理想的すぎる反応条件” が提案されることもあります。

そこで重要になるのが、CAS SciFinder によるデータの検証 です。生成 AI が提示した反応・化合物・文献を CAS SciFinder で裏付けることで、

  • 本当に存在する文献か
  • 報告例がある反応条件か
  • 化学的に妥当な構造か

が確実に確認でき、生成 AI の弱点を補いながら、より精度の高い調査・意思決定ができます。

つまり、生成 AI の発想力と CAS SciFinder の正確性を組み合わせることで、誤情報を回避しつつ、研究スピードと精度の両立が可能になります。

生成 AI の化学情報における典型的な誤りと、その検証方法

生成 AI は、文章として自然に見える回答を作るのは得意ですが、化学情報の正確性には課題があります。特に、反応条件や文献情報、化学構造など、“専門的な正しさ” が求められる領域では、それらしく見える誤りが紛れ込むと、深刻な時間ロスにつながるため注意が必要です。

ここでは、研究現場で実際に起きやすい誤りのパターンと、それらを CAS SciFinder でどのように検証するかを整理します。

パターン1:文献情報の整合性が崩れた誤生成(ハルシネーション)

生成 AI は、実在する雑誌名や巻号、著者名などを“もっともらしく組み合わせて”提示することがあります。しかし、「巻号だけ本物で内容がまったく違う」、「存在しない DOI をそれらしく提示する」など、文献情報の整合性が破綻しているケースも少なくありません。

こうした誤生成は、文章として非常に自然であるため、一見すると本物の文献に見えてしまい、研究者に大きな時間ロスをもたらします。

〈CAS SciFinder による検証方法〉

  • 雑誌名・年・巻号・著者名で文献を Reference Search
  • CAS SciFinder に該当文献がない場合 → ハルシネーションの可能性が高い
  • DOI が提示された場合は DOI での直接照合も有効

提示された文献情報は、CAS SciFinder で必ず 1 回確認することが基本です。

パターン2:化合物構造・名称の誤生成(ハルシネーション)

生成 AI は、化合物名や構造式を“ありそうな組み合わせ”で生成しますが、実際には以下のような誤りが含まれることが多くあります。

  • 実在しない化合物名・官能基名
  • 原子価や電子数が破綻している化学構造
  • R/S、E/Z の誤った付与

このように一見正しそうに見えても、化学的に成立しない物質を提示している場合があります。

〈CAS SciFinder による検証方法〉

  • 化合物名 → 名称検索
  • 化学構造式 → 部分構造検索
  • 立体化学 → 立体構造検索

CAS SciFinder に該当化合物が存在しない場合、もしくは提示された立体化学と報告例が一致しない場合、AI がもっともらしく創作した可能性が高くなります。

パターン3:科学的に成立しない反応条件を提案する

生成 AI は、反応機構の整合性や過去の報告例を参照しないため、以下のような“理想化された条件”を提示することがあります。

  • 無触媒・室温・高収率
  • 機構的に成立しない触媒
  • 溶媒・温度・添加物が反応性と矛盾
  • 報告例のない反応組み合わせ

一見合理的に説明されているように見えても、根拠がない場合が多く、そのまま信じると実験計画に大きな誤りを招きます。

〈CAS SciFinder による検証方法〉

  • 提示された反応に近い反応を検索する
  • “無触媒”と主張する反応なら、同様の反応が本当に無触媒で成立しているか出典を確認
  • 温度・溶媒・収率などの傾向を、過去の実例と比較して、確認する

CAS SciFinder に類似反応が存在しない場合、または条件が大きく乖離している場合、AI の条件提案が科学的根拠を欠いている可能性が高いあることを疑ってみてください。

生成 AI の誤りを見破るポイント(チェックリスト)

生成 AI が提示する化学情報は、文章として自然に整っているため、誤りが含まれていても直感的には気づきにくいことがあります。そこで、AI の回答を受け取った段階でまず確認しておきたいポイントを、チェックリストとして整理します。

これらを事前に押さえておくことで、CAS SciFinder による裏付け作業が効率化され、誤情報を早期に排除しやすくなります。

チェック項目 ポイント 典型的な誤り
① 文献情報の整合性 雑誌名・年・巻号・ページ・著者・DOI の一貫性 巻号だけ本物/実在しない DOI/タイトルと内容のズレ
② 化合物名・構造式 化合物名と構造の一致、原子価・電荷、結合角 不自然な名称・構造/化学的ルールの逸脱/立体化学情報の誤り
③ 反応条件の妥当性 触媒・温度・溶媒が反応機構と一致しているか 無触媒・室温・高収率など“理想的すぎる条件”
④ 全体の文脈 中間ステップや根拠の省略の有無 文章は自然だが根拠が薄い・飛躍がある

生成 AI と CAS SciFinder を往復する理想的なワークフロー

生成 AI と CAS SciFinder は、それぞれ得意分野が異なります。

  • AI:発想力・言語化・アイデア生成
  • CAS SciFinder:文献・特許・反応・化学物質の正確な情報

この 2 つを往復することで、誤情報を避けつつ調査や検討のスピードを大幅に高めることができます。

次に、研究現場で実務しやすいシンプルな「理想的ワークフロー」を紹介します。

ステップ1:生成 AI で “発想” と “たたき台の作成” を一気に進める

まずは生成 AI に、

  • 反応経路の案
  • 合成手順の候補
  • ターゲット化合物のバリエーション
  • 関連文献
  • キーワード候補

などを求め、思考の起点となる材料を短時間で集めましょう。

この段階では、「正確性」よりも “抜け漏れをなくす” ことが目的です。
生成 AI の高速なアイデア展開をそのまま活かします。

AI は幅広い案を一気に提示してくれるため、調査の出発点としてとても有効です。

ステップ 2:CAS SciFinder で実在性・妥当性を裏付ける

AI が出した案をそのまま採用せず、次のような観点から CAS SciFinder で裏付けを取ります。

  • 反応は実際に報告されているか
  • 触媒・溶媒・温度は妥当か
  • 生成物や中間体は実在するか
  • 文献は本当に存在するか、内容は一致しているか

ここで、AI の誤生成をふるい落とします。

つまり、この“裏付け作業”は、生成 AI が苦手な部分を CAS SciFinder が補完するステップです。

ステップ 3:検証結果を AI に伝え、修正案を出させる

CAS SciFinder で得られた実際の情報・妥当な条件・正しい化学構造などを元に、矛盾や不明点を AI にフィードバックします。実在データを与えると AI の精度が大きく上がるため、ここで

  • 条件の最適化
  • ルート案の整理
  • 検討パターンの比較
  • 追加の候補生成
  • 文献内容の再要約

といった “次の段階の思考” を AI に任せます。

例えば、「銅触媒×室温の条件は CAS SciFinder に報告がなかった。Pd 触媒×高温条件の反応例が多かった。」のように、具体的な検証結果を伝えると、AI は結果を再調整し、より現実に近い案を出してくれます。

ステップ 4:AI の修正案を再度 CAS SciFinder で確認する

修正案も、そのまま使わず、再度 CAS SciFinder で裏付けするのがおすすめです。
これにより、アイデアが段階的に精度を高めながら洗練されていきます。

ステップ 5:最終的な案を AI に文章化させる

検証済みの情報が揃ったら、

  • 調査メモのまとめ

  • 報告書のドラフト作成

  • 反応経路・条件の確定

  • 文献リストの整理

などは AI に任せると効率的です。このように根拠には CAS SciFinder のデータを用い、文書の作成・構成は AI、と役割分担することで、正確かつ分かりやすい資料が短時間で作れます。

まとめ

生成 AI は、発想や整理のスピードを大きく高めてくれる一方で、化学情報の精度にはまだ課題があります。そのため、生成  AI が生み出す “もっともらしい誤り” があることを前提にして、CAS SciFinder で確実に裏付けを取ることが、これからの研究スタイルでは欠かせません。

実務的価値を向上するために、次の 3 つの行動を具体化してみましょう。

明日からできる 3 つの行動

  1. AI が出した文献は、5 秒で潰す


    雑誌名 × 巻号 × 年 → 一致しなければ即アウト
    DOI → 存在しなければ即アウト
  2. AI が出した化合物は、名称と構造の2段階で照合する


    名称検索 → 実在するかをチェックする
    部分構造検索 → 類似構造さえ存在しないようなら即アウト
  3. 夢のような反応条件 (室温・無触媒・高収率)は警戒する


    室温・無触媒・高収率の 3 条件が揃っている反応は疑ってかかる

 

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この記事は CAS SciFinder の検索方法の提供ではありません。CAS SciFinder を使った情報検索の参考になるような収録データに関する情報や、ちょっとした関連知識を提供する記事です。CAS SciFinder の検索方法や操作については以下のページをご覧ください。

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掲載日 2026 年 1 月 26 日