植物色素を用いて濾紙でpH試験紙をつくる(春日井高等学校)
第20回高校化学グランドコンテスト「化学情報協会賞」受賞者インタビュー
2025年12月掲載
愛知県立春日井高等学校サイエンス部
山田 哲也 先生
2年生 植田 鈴那 さん(研究チームリーダー)
1年生 山下 柚希 さん

山下さん(左)、植田さん(右)
第20回高校化学グランドコンテストにおいて「化学情報協会賞」を受賞した愛知県立春日井高等学校サイエンス部の皆さんに受賞の感想、研究の工夫、研究活動の雰囲気、そして今後の展望などをお聞きしました。
(インタビュー日:2025年11月18日)
——受賞おめでとうございます。感想はいかがですか?
山下さん:初めて聞いたときはびっくりしました。とても嬉しかったです。
植田さん:非常にうれしかったです。自分たちが受賞したということも驚きでしたが、これまでの苦労が「賞」という形で評価されたことが何より嬉しかったです。
山田先生:賞をいただいて大変良かったと思っています。
——コンテストの発表はかなり練習されたんですか?
植田さん:かなり練習しました。1週間くらい、集中して取り組んだと思います。
——研究テーマの着想について教えてください。アントシアニンの色変化に注目したきっかけは?
植田さん:昨年度、先輩がアントシアニンを研究していて、私も取り組みたいと思ったのがきっかけです。さらに、愛知県教育委員会の「あいちSTEAM『知の探究講座』」で高分子を学び、アントシアニンと高分子を組み合わせたら面白い結果が出るのでは、と考えました。そこで山田先生に相談し、アルギン酸に入れてみることで進めました。
——濾紙の染色で、アルギン酸ナトリウムを用いた工夫に驚きがあったと伺いました。
植田さん:水溶液だけ染色した場合はムラや薄さが目立つのですが、アルギン酸ナトリウム水溶液にアントシアニンを加えると、濃く均一に染色できることを発見しに驚きました。
さらに、塩化カルシウム水溶液を吹き付けてできたアルギン酸膜を“剥がす”いう工夫がこの研究の“核心”だと考えています。水洗でアルギン酸を除くと色素まで流れてしまう課題に対し、塗布→膜形成→剥離というプロセスで色素を保持したまま試験紙化できました。

発表の様子(山田先生よりご提供)

発表の様子(芝浦工業大学よりご提供)
——カラーチャートの作成や、目視とスマホアプリによる比色法の比較も行ったそうですね。
植田さん:濃く染色できたので色の区別は目視である程度可能でしたが中性域の微妙な色差は見分けが難しい場面もありました。スマホアプリの活用は先輩方の研究結果を継承したもので、精度向上に役立つと考えています。目視と併用することで、実験の再現性や判断の確からしさを高める狙いがありました。
——作製したpH試験紙の評価試験は小中学生に協力してもらったようですね。
山田先生:春日井市主催の小中学生向けのサイエンスフェスタ2025が開催された際、高校ごとに部屋が設けられ、各学校が独自の企画を行う機会がありました。私たちの学校はこの研究をしていたので、pH試験紙を使って目視でpHを判定する体験を実施しました。
——小中学生の反応はどうでしたか?
山下さん:色の変化を見せたら、すごく驚いた様子で『なんで色が変わるの?』という反応がありました。その後、酸性とアルカリ性の説明をしたところ、興味を持って聞いてくれ、良い実験体験になったと思います。
——研究チームの雰囲気はどうですか?
植田さん:研究チームは4人でした。私の意見をみんなが尊重してくれる形でした。『これをやって』と言えば、柚希ちゃんも快く引き受けてくれました。『ここからここまでは確実に覚えてね』という感じで役割を決めていました。
山下さん:植田さんはいろいろ指示してくれて、頼りになる先輩だなと思いました。
——今後の展望はいかがですか?
植田さん:今回は紫キャベツのアントシアニンを使いましたが、アントシアニンは植物により性質が少しずつ違うため、ナスや朝顔など他の植物由来のアントシアニンや人工色素との比較を行い、染色の濃さや色安定性の違いを調べたいです。
——副賞の研究費は何に使いたいですか?
植田さん:研究に活かしたいと思っています。具体的には、pH計や濃度測定器など、計測に必要な機材の購入に充てたいです。
——将来の進路の希望はいかがですか?
植田さん:今、化学の研究をしているので、将来もこういうことを続けたいなと思っています。
山下さん:将来は土木や建築関係に進みたいと考えています。
——それは素晴らしいです。受験や次年度の活動との両立は大変ですが、後輩への継承も含め、さらなる探究を期待しています。
化学情報協会賞の選定理由
- 完成度:pH試験紙としての機能と色の再現性が高い。
- 工夫:アルギン酸ナトリウムによる濃染、塩化カルシウム膜の形成と剥離による試験紙化。
- 評価方法:目視+スマホアプリ(先輩研究の継承)で精度向上を志向。
- 社会的意義:小中学生への実践で、化学の裾野を広げるという化学情報協会賞の理念と一致。
- 発表姿勢:自分の言葉で説明し、質問に一生懸命答えてくれた姿が印象的。
化学情報協会は、次世代の科学人材育成を目的として本コンテストに協賛しています。「情報で、科学をひらく」をモットーに、科学情報プラットフォーム(CAS SciFinder、CSD、ICSDなど)、科学技術文献・特許向けの機械翻訳サービス、医薬・化学・バイオ分野の特許調査、特許審査のための先行技術調査などを通じて、研究の加速と知的財産戦略を支えています。
