いのち豊かな沖縄の海に未来の答えを求めて ―海洋生物資源探索を照らす天然物辞典―
天然物辞典ユーザーインタビュー
2025年11月掲載
オーピーバイオファクトリー株式会社
代表取締役 金本昭彦さん
事業部 藤原健史さん

沖縄を拠点に、海洋生物が有する卓越した能力を、人々の暮らしや健康に役立てる事業を幅広く展開しているオーピーバイオファクトリー株式会社の皆様に、Taylor & Francis Group / CRC Press社の天然物辞典を活用した、生物資源ビジネスについて伺いました。
南方の海洋生物資源から未来のシーズを見出す
——オーピーバイオファクトリー株式会社の事業内容を教えてください。
金本さん:2006年の設立以来、沖縄の豊富な海洋生物資源を持続的に活用することで人類や社会の進歩、発展に貢献するという理念のもと、有用な生物資源を社会実装するための研究開発サービスを提供してきました。生物資源の収集やライブラリー構築、機能性のスクリーニング、機能性成分の単離同定から、発見されたシーズを生産するプロセスやスケールアップの検討まで、生物資源ビジネスに必要となる幅広い業務を依頼いただいています。現在まで、製薬業界をはじめとして食品業界や化粧品関連業界など多岐にわたる分野の、延べ100社以上からの受託実績があります。

図1 オーピーバイオファクトリー株式会社の生物資源を利用したビジネスのバリューチェーン
——どのような生物資源を扱っているのですか。
金本さん:弊社が扱う生物資源の特徴は、海洋性、特に沖縄周辺の海洋に特化しているという点です。高度な採集技術と地元のダイバーや漁業者とのネットワークを駆使して収集した生物資源の中心は、放線菌や糸状菌、乳酸菌、酵母などの微生物に加え、微細藻類、そして海洋マクロ生物です。これらを生体ライブラリーとして保有するほか、抽出物ライブラリーも構築しており、保存している抽出物は2万種類に及びます。化合物探索受託事業では、このライブラリーを利用して機能性の探索から活性本体の同定まで行いますが、多様な目的のスクリーニングに汎用できるよう、ランダムに採集された多様な海洋生物資源を含むライブラリーとなっている点が大きな特徴です。
中でも微細藻類は脂肪酸・多糖類・色素などの探索源として近年注目されている素材で、弊社では独自に収集した約1000株を保有しています。微細藻類は、実は、培養のスケールアップが難しい生物なのですが、弊社では大量培養装置を導入しており、培養条件の検討や、量にもよりますが原料供給の依頼にも対応できる体制を整えています。弊社のライブラリーから見出された微細藻類「パブロバ」は、沖縄本島北部のマングローブが繁茂する汽水域で採取されたもので、フコキサンチン、EPAやDHA、カルシウムや食物繊維、GABA、ヒドロキシプロリンなど多様な栄養成分をバランスよく含んでいることがわかりました。パブロバを用いた商品展開も行っています。

金本さん

微細藻類「パブロバ」

パブロバを用いた商品( https://pavlova.jp/)
海洋生物資源探索の効率を上げ、幅を広げる天然物辞典
——事業において天然物辞典をどのように利用されているのでしょうか。
金本さん:化合物受託探索事業で利用しています。先ほども申し上げたとおり探索事業では、生物資源ライブラリーのスクリーニングの結果、目的とする活性が認められれば、その活性の本体となっている化合物を特定するという流れがあります。天然物辞典は、この流れの中で活用しています。
藤原さん:ライブラリースクリーニングで活性が確認されると、通常、その活性の本体である化合物を特定するために、分離や精製、さらにNMRで構造を決定する必要があります。これには多くの労力と時間を費やすものですが、天然物辞典を検索することで、扱っている生物種に含まれている化合物や、類似した部分構造を持つ化合物、目的とする機能性に関連する生理活性が報告されている化合物といった既存の情報を効率よく収集することで活性本体の候補化合物を絞り込んでいます。
また、ある生物からの抽出物に活性が見つかった場合に、活性本体の化合物が新規であるかどうか予測し化合物の同定につなげることは、その後の開発計画を左右する重要なポイントです。既知の化合物であれば、早い段階でそれを把握することで、その後の開発にかかる時間や費用を抑えることができます。このように天然物辞典の情報を戦略的に活用し、機能性探索から化合物同定までの流れを円滑に進めています。

藤原さん
——天然物辞典の利点はどんなところですか。
藤原さん:天然物資源に含まれる成分に特化した情報がデータベースとして蓄積されているというのが、天然物資源を扱う私たちにとってやはり一番の利点ですね。他の化学系データベースにおいて生物種で検索した場合、得られる情報が多いため精査に時間がかかることがあります。情報の網羅性も大切ではありますが、生物資源から効率よく活性本体にたどりつくためには、天然物に限定した天然物辞典のようなデータベースは理想的ですね。
また、天然物辞典では、生物学的起源や類縁生物種の情報を確認することができるので、化合物の物性情報を求めてというよりは生物資源の情報ソースとして利用する場面も多いです。弊社では、沖縄沿岸の海洋生物の他に、沖縄の植物を扱うこともあります。沖縄をはじめ南方域に生息する植物には、まだ詳しく調べられたこともないような未利用の植物が数多く存在します。たとえその植物そのものの成分や機能性に関する情報はなくとも、近縁種に含まれる成分や機能性がわかれば、それを手がかりに、その未利用の植物の利用価値を検討することができます。

図2 検索初期画面/検索項目「Biological Source」(一番下の段)に「Phaeodactylum tricornutum」(植物プランクトンである珪藻の一種)を入力

図3 検索結果画面/図2の検索結果で、Phaeodactylum tricornutumに含まれる化合物がヒット
内容が一目でわかるリファレンス機能で情報をたぐりよせる
——どのようなきっかけで天然物辞典を導入されたのですか。
藤原さん:設立当初、弊社は石垣島を拠点に海洋生物のライブラリー作成をメイン事業として行っていました。その当時、産業技術総合研究所(産総研)の新家一男先生(現バイオメディカル研究部門)と共同研究をしており、化合物大辞典に触れる機会がありました。その後、会社が石垣島から沖縄のうるま地域に移転したのを機に、構築したライブラリーを活用して化合物探索受託事業を展開することになり、天然物辞典を導入しました。私自身、産総研で利用していた経験からその有用さはよく理解していたので、スクリーニングサービスを行うなら天然物辞典は不可欠だろうと導入を提案しました。
——天然物辞典の中でも便利だと思う機能を教えてください。
藤原さん:リファレンスの情報はたいへん便利ですね。特に気に入っているのは、その論文が化合物の単離に関するものなのか、合成に関するものなのか、それとも活性を検討したものなのかといった情報が、書誌事項とともに示されているところです。各リファレンスに「isol」(isolationの略)、「synth」(synthesisの略)、「activity」(biological activityの略)といった表示があるので、例えば、得られたNMRデータを論文で報告されている構造情報と照らし合わせたい場合に、その化合物に関する全ての論文を読まなくても「isol」と表示されているものだけピックアップしてその中から探せばよいので助かっています。
さらに、天然物辞典では、天然物に限定された情報であることに加え、天然物資源探索で必要な情報のラベル分けがなされているので、目的の論文にたどりつきやすいです。
この表示の機能を利用して、検索の初期の段階で、起点となる論文にあたりをつけています。例えば、ある化合物Aを検索すると、その光学異性体など関連した化合物BやCについてのリファレンスも検索結果にたくさん含まれてきますよね。そうすると今度は、化合物Cの単離に関する情報を見たいといった場合もでてきます。そういうときでもリファレンスに内容の表示があるので、関連のありそうなものが一目でわかります。

図4 天然物辞典における3,4-Dihydroxyprolineとその誘導体のリファレンスのリスト。各リファレンスには文献の内容を示すタグが付与されている。例えば、「synth」のタグは合成に関する論文であることを、「isol」のタグは単離に関する論文であることを示す。また、「2S,3S,4S-form」は(2S,3S,4S)-体の文献、「2S,3R,4R-form」は(2S,3R,4R)-体の文献であることを示す。
——どのような分野の方々に天然物辞典をお勧めしたいですか。
金本さん:目的にもよりますが、主に天然資源を扱っているのであれば天然物辞典はとても有用だと思います。弊社のように天然物資源を社会に役立てたいと事業や研究をされているのであればぴったりだと思います。
——本日はどうもありがとうございました。
ユーザー紹介

オーピーバイオファクトリー株式会社
OP Bio Factory Co., Ltd.
所在地:〒904-2234 沖縄県うるま市字州崎5番8 沖縄ライフサイエンス研究センター107
沖縄の豊富な海洋生物資源を人類や社会の進歩・発展に生かすという理念のもと、2006年に設立。資源の収集やライブラリーの構築、スクリーニングから生産サポートまで、医薬・食品・化粧品・化成品・環境など、生物資源をもとに研究や商品開発をしている企業や研究室のニーズに合わせた多様なサービスで社会貢献を目指す。


化学情報協会では Taylor & Francis Group / CRC Press 社のCHEMnetBASEを扱っております。天然物、食品成分、ポリマーなど、9分野のオンライン辞典が利用できる化合物検索サイトで、各種物性値や文献情報が収録されています。各種物性値の範囲指定検索や CAS登録番号(CAS RN®)、生理活性、生物起源などのテキスト情報による検索、部分構造検索などを組み合わせることで、目的の化合物を探し出すことができます。
