「似ている化合物」はどう決まる?CAS SciFinder の新しい類似構造評価
コラムでは、CAS SciFinder のユーザーの方を対象に、検索に関するお役立ち情報や、ちょっとした豆知識を提供します。今回は CAS SciFinder に新たに追加された類似構造評価手法 「分子フィンガープリント法」 を取り上げます。類似構造検索の仕組みや従来方式との違いを通じて、「似ている化合物」とは何かを考えてみましょう。
類似構造検索はなぜ重要なのか
化学研究では、新しい化合物を設計する際や既知の化合物に関する情報を調査する際に、「構造が似ている化合物」を探したい場面が数多くあります。例えば、既知の医薬候補化合物に類似した化合物を探索したり、特定の機能や物性を持つ材料を調査したりする際に、類似構造検索は重要な役割を果たします。
一般に、構造が似ている化合物は、近い性質や活性を示す可能性があるため、研究の初期段階における候補化合物の探索や、既知技術の調査に広く活用されています。CAS SciFinder でも、類似構造検索は利用頻度の高い検索機能の一つです。
しかし、「似ている化合物」と一言で言っても、その定義は意外に単純ではありません。人間の目で見て似ていると感じる場合もあれば、構造上の特徴や部分構造に着目すると異なる評価になる場合もあります。そのため、どのような基準で類似性を判断するかによって、検索結果は大きく変わることがあります。
そのため、類似構造検索では「どのような基準で類似性を評価するか」が検索結果を大きく左右します。
CAS SciFinder では、この類似性評価をさらに進化させるため、新たに「分子フィンガープリント法」が導入されました。
CAS SciFinder に追加された分子フィンガープリント法とは
2026 年 6 月のアップデートにより、CAS SciFinder の類似構造検索に 分子フィンガープリント法 (Fingerprint Similarity) が追加されました。ユーザーは従来の Standard Screen-Based Similarity と Settings 画面で切り替えて利用できます。
初期設定では分子フィンガープリント法が採用されています。
図1 : CAS SciFinder における類似構造評価方法の設定画面 (Settings)

分子フィンガープリント法は、分子構造を「特徴の集まり」として表現し、それらの特徴を比較することで類似性を評価する手法です。
例えば、人が構造式を見て似ているかどうかを判断するときは、ベンゼン環や官能基、置換基の位置など、さまざまな特徴を無意識に捉えています。分子フィンガープリント法も同様に、分子中にどのような構造的な特徴が存在するかを抽出し、その共通性をもとに類似度を計算します。
今回 CAS SciFinder で採用された手法は、原子だけでなく、その周辺の結合環境も考慮して類似性を評価します。そのため、構造の細かな違いを反映しやすく、目的に近い化合物を効率よく見つけられることが期待されます。
また、この評価方法は類似構造検索だけでなく、構造検索結果の関連度順にも影響します。そのため、従来と同じ構造検索を実行した場合でも、検索結果の表示順位が変わることがあります。
従来の類似構造評価との違い
CAS SciFinder で従来から利用されている Standard Screen-Based Similarity は、化合物全体の二次元構造に基づいて類似性を評価する方法です。構造全体の形を比較するため、関連する化合物を幅広く探索する際に役立ちます。
一方、今回追加された分子フィンガープリント法は、分子中の部分構造や原子の周辺環境といった特徴に着目して類似性を評価します。各原子の周囲にどのような構造が存在するかを考慮するため、構造の細かな違いを反映しやすいことが特徴です。
両者の違いを簡単に表すと、従来の方法は 「構造全体の類似性」、分子フィンガープリント法は 「原子周辺の特徴を含めた類似性」 を重視する評価方法といえます。
【表1 : 類似構造評価の主な違い】
| 比較項目 | 従来の評価方法 | 分子フィンガープリント法 |
|---|---|---|
| 評価対象 | 化合物全体の二次元構造 | 各原子とその周辺の構造的特徴 |
| 評価ポイント | 構造全体の見た目の類似性を重視 | 構造の細かな特徴を反映 |
| 検索結果 | 類似化合物を幅広く提示 | 特徴の近い化合物を選択的に提示 |
| 目的 | 網羅性を重視した検索 | 精度を重視した検索 |
検索結果はどう変わるのか
分子フィンガープリント法の導入により、検索結果そのものが変わる場合があります。これは、類似性を評価する基準が変わるためです。
従来の評価方法では高い順位に表示されていた化合物が、新しい評価方法では順位を下げることがあります。逆に、構造全体の見た目はそれほど似ていなくても、部分構造や原子周辺の特徴が近い化合物が上位に表示される場合もあります。
同じ化合物 (フルコナゾール、CAS RN® 86386-73-4) で類似構造検索を実行した例
それでは実際に、CAS SciFinder で類似構造検索を実行した例をご紹介します。
今回、構造質問式として使用するのは、フルコナゾール (CAS RN® 86386-73-4) です。
フルコナゾールは、トリアゾール環を 2 つ有する物質です。
したがって、テトラゾール環を有する CAS RN® 2460040-21-3 は、Substructure 検索でも、As Drawn 検索でもヒットすることはありません。
このようなフルコナゾール類似物質を探したい場合に実行するのが、類似構造検索 (Similarity) です。
構造質問式 86386-73-4

類似構造 2460040-21-3

Standard Screen-Based Similarity の類似構造検索結果
従来のアルゴリズムで、類似構造検索を実行した結果がこちらです。
2460040-21-3 は、類似性スコアは 95。Relevance 順で、29 番目に表示されました。
【Standard Screen Based Similarity で類似構造検索を実行した結果】

Standard Screen-Based Similarity では、タニモト係数に基づき分子全体の構造パターンを比較するため、100 位ぐらいまでの結果はすべて 3 つの環を含む化合物が並ぶのが特徴です。つまり、「全体の見た目が似ている」化合物が上位に表示される傾向があります。
Fingerprint Similarity の類似構造検索結果
Fingerprint Similarity で、類似構造検索を実行した結果がこちらです。
従来の類似構造評価では 29 位だった化合物 (2460040-21-3) が、分子フィンガープリント法では 18 位に順位を上げています。評価方法の違いによって、検索結果の順位が変わることが分かります。
【Fingerprint Similarity で類似構造検索を実行した結果】

Fingerprint Similarity は、各原子とその周辺環境に着目して比較するため、環サイズや局所構造の違いに敏感です。
特に、活性や機能が類似する化合物を探す場面では、従来とは異なる検索結果が得られる可能性があります。
上図の結果中では、15 番目や 16 番目に 2 環の化合物がランキングされていることからも、従来法との違いがお分かりいただけるのではないでしょうか。
この変更は、類似構造検索に限った場合だけではありません。分子フィンガープリント法は、構造検索結果の関連度順にも利用されるため、これまでと同じ検索を実行しても表示順位が変わることがあります。
まとめ
2026 年 6 月のアップデートで、CAS SciFinder の類似構造検索に新たな評価方法として「分子フィンガープリント法」が追加されました。ユーザーは Settings 画面で、従来の評価方法と新しい評価方法を選択できます。
従来の評価方法が構造全体の類似性に着目するのに対し、分子フィンガープリント法は原子の周辺環境を含む構造的特徴をもとに類似性を評価します。そのため、同じ検索でも結果の順位や表示される化合物が変わる場合があります。
どちらの方法にも特徴があり、適した用途は異なります。検索結果がこれまでと変わったと感じた場合は、評価方法の違いにも注目してみてください。
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この記事は CAS SciFinder の検索方法の提供ではありません。CAS SciFinder を使った情報検索の参考になるような収録データに関する情報や、ちょっとした関連知識を提供する記事です。CAS SciFinder の検索方法や操作については以下のページをご覧ください。
CAS SciFinder 動画 (JAICI チャンネル)
掲載日 2026 年 8 月 28 日
