チョコレートの話
コラムでは、CAS SciFinder のユーザーの方を対象に、検索に関するお役立ち情報や、ちょっとした豆知識を提供します。本コラムでは、身近なスイーツであるチョコレートをテーマに、原料であるカカオ豆の意外な一面と、CAS SciFinder を用いた検索のコツをご紹介します。
採れたてカカオは〇〇の味?
お店で見かけるチョコレートからは想像もつきませんが、その原料であるカカオの実(カカオポッド)を割ると、中には白い果肉(カカオパルプ)に包まれたカカオ豆が並んでいます。カカオパルプには甘みと酸味があり、ライチなどのトロピカルフルーツに似て、意外と美味しいとのこと。新鮮なカカオパルプに出会うチャンスがあれば、ぜひ一度食べてみたいものです。
この白い果肉(カカオパルプ)に包まれたカカオ豆そのものを味わっても、私たちが知っているチョコレートの味や香りはまだありません。未加工のカカオ豆には、ポリフェノールなどの成分が含まれており、強い苦味や渋味があります。

チョコレート誕生の裏にある発酵と焙煎の科学
それでは、苦く渋いカカオ豆から、どのようにしてチョコレート特有の香りや風味が生まれるのでしょうか。
その大きな鍵を握るのが、収穫後に行われる発酵と焙煎です。
香りのもとをつくる『発酵』
カカオの実を収穫したら実を割り、白いパルプに包まれたカカオ豆を取り出します。この豆を、バナナの葉で包んだり木箱に入れたりして数日間発酵させます。
発酵の主役となるのは、パルプに含まれる糖分を利用して働く酵母や乳酸菌、酢酸菌などの微生物です。これらの働きによってアルコールや有機酸が生成され、カカオ特有の渋みや雑味が和らぎます。これが、チョコレートの土台となるまろやかな味わいを生み出します。
さらに、発酵時の熱や酸が豆の内部に浸透することで、アミノ酸や還元糖など、のちの香りの形成に関わる成分、つまり香りの前駆体が生じます。
発酵の日数、撹拌回数、一緒に使う素材によって酸味や濃厚なコクなどの風味は大きく変化するため、発酵はチョコレートのためにとても重要な工程といえます。
こうして発酵が終わったカカオ豆は、しっかり乾燥させます。

香りを生み出す『焙煎』
発酵・乾燥を終えたカカオ豆は、次に焙煎(ロースト)されます。焙煎はカカオ豆に熱を加える工程で、豆の水分が減少するとともに、さまざまな化学反応が進みます。
なかでも、チョコレートの香りの形成に重要なのがメイラード反応です。発酵の過程で形成されたアミノ酸や還元糖などが反応し、チョコレートの特徴的な香りに関わるさまざまな化合物が生成されます。なかでもピラジン類は、焙煎によって生成する代表的な香気成分の一群です。
💡 メイラード反応とは
メイラード反応とは、アミノ酸 (タンパク質) と還元糖を加熱したときに起こる反応です。
身近なところでは、トーストのきつね色や香り、コーヒーやビールの色や風味、ステーキやハンバーグの表面など。
食品の色や香り、味の形成に深く関わっていて、カカオ豆の焙煎ではチョコレートらしい香りを生み出す成分の形成につながります。
カカオ豆に含まれる成分にも注目
カカオには香気成分だけでなく、テオブロミン(CAS RN® 83-67-0)のような成分も含まれています。テオブロミンはカカオに含まれる代表的なメチルキサンチン類のひとつで、チョコレートの苦味にも関係しています。

テオブロミンは、カフェインと非常によく似た化学構造を持つ物質です。カフェインに比べてメチル基が 1 つ少なく、アデノシン受容体への作用も異なるため、カフェインに比べて中枢神経への刺激が穏やかで、よりマイルドに作用すると考えられています。
チョコレートの化学を CAS SciFinder で紐解く
このように、身近なチョコレートにも数多くの化学物質や化学反応が関わっています。では、カカオの発酵と風味の関係について、CAS SciFinder で調べてみましょう。
例えば、カカオ発酵に用いられるスターターカルチャーについて調べるため、cacao fermentation と検索したのちに、 ”starter culture” で絞り込むと、140 件余りの文献が得られます。
さらに香りに注目するため aroma のキーワードを追加することで、55 件の文献が得られました。

View を No Abstracts に設定しているとこのようにタイトルと主な書誌情報がコンパクトに表示されます。抄録もあわせて確認したい場合は、Full Abstracts を選択すれば、次のように詳細な内容も確認できます。

この検索結果の1番目では、カカオ発酵から分離した酵母、乳酸菌、酢酸菌について、発酵特性や香気成分の生成能力を調べています。酵母の Hanseniaspora uvarum、Hanseniaspora occidentalis、Saccharomyces cerevisiae、Pichia fermentans は、甘い香りやフローラルな香りに関わるアルコール類やエステル類を多く生成することが確認されました。
さらに、こうした菌株を香りを高めながら酸味のバランスを保つスターターカルチャー・カクテルの候補として利用できる可能性が示されています。

また、4番目の文献では、カカオ発酵に適したスターターカルチャーを選ぶため、発酵に関わる酵母を官能評価と化学分析の両面から調べています。22 種の酵母が確認され、そのうち Hanseniaspora thailandica と Pichia kluyveri は、特に強いフルーティーな香りを示したことが報告されています。
この香りには、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸2-フェニルエチルの生成が関係すると考えられています。つまり、スターターに用いる酵母を選ぶことで、カカオの香りの特徴を変えられる可能性が示されています。
まとめ
普段何気なく口にしているチョコレートですが、その特徴的な香りや風味が生まれるまでには、カカオ豆の発酵や乾燥、焙煎といった工程と、そこで起こるさまざまな化学変化が関わっています。
発酵では、微生物の働きによってカカオ豆の内部に香りのもととなる成分が形成され、焙煎ではメイラード反応などによって、チョコレートらしい香りにつながるさまざまな化合物が生まれます。また、カカオには香気成分だけでなく、苦味に関係するテオブロミンなど、多様な化学物質が含まれています。
身近なチョコレートも、化学の視点から見てみると、実に多くの物質や反応が関わっていることがわかります。CAS SciFinder を活用すれば、こうしたカカオの成分や発酵・焙煎、風味に関する研究を、物質と文献の両面から調べることができます。
いつものチョコレートを味わうとき、その香りの奥にある化学にも少し思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
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この記事は CAS SciFinder の検索方法の提供ではありません。CAS SciFinder を使った情報検索の参考になるような収録データに関する情報や、ちょっとした関連知識を提供する記事です。CAS SciFinder の検索方法や操作については以下のページをご覧ください。
CAS SciFinder 動画 (JAICI チャンネル)
掲載日 2026 年 9 月 30 日
