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最新の電池について調べてみよう

電池の歴史

電池は古くは紀元前のバグダット電池から始まります。これ自体は電池としての目的で利用されていたものではないという見解もあるようですが、古代に電池らしきものがあったことはロマンを感じますね。

                                                   出典: 一般社団法人 電池工業会 HP (https://www.baj.or.jp/battery/qa/history.html)

その後、人類の発展とともに様々な電池が開発され今では身の回りに必ずある当たり前の存在になりました。

私事ですが小学生の頃にミニ四駆が流行っていたので沢山アルカリ乾電池を消費してきました。ここ十年くらいを思い返すとノートパソコンやスマートフォンの普及に伴いリチウムイオン電池が爆発的に増えた気がします。

これらの小型の電池のみならず電気自動車 (EV) も普及しだしており大型の電池も開発され、電池はより生活になくてはならないものになっています。

SDGs、カーボンニュートラル

話は変わりますが、2015 年に SDGs が定義づけされて以来、カーボンニュートラルが強く意識されはじめ、各国政府や企業がその対応に追われています。

                                  2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(本文)

                                  2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(概要資料)

 

カーボンニュートラルの取り組みの一つとして EV の普及が挙げられています。

EV は二酸化炭素や窒素酸化物などの有害物質が排出されないのがメリットです。一方で EV の課題の一つとして航続距離を延ばすという事があります。

例として日産リーフ(下図左、EV)*1と日産ノート (下図右、ガソリンハイブリッド車)*2 を比べてみるとサイズはほとんど同じですが、航続距離はリーフが 322~400 km に対してノートは 800~900 km と大きな差があります。

バッテリーを増やすことで航続距離は伸ばせますが、単純に二倍にすれば二倍になるものではなく、重量が増加するため、車そのもののサイズアップの必要が生じることが悩みの種になっています。

出典: 日産ホームページ (http://www.nissan.co.jp/) 左は日産リーフ (EV), 右が日産ノート (ガソリンハイブリッド車)

次世代電池

EV の性能向上を語る上で避けて通れないのが、リチウムイオン電池の技術革新です。様々な研究がなされる中で注目を集めているのが、リチウムイオン電池の液体電解質を固体に置き換えた、全固体電池です。

発火の危険性が低く、急速充電が可能となり、体積当たりの蓄電量も大きいため航続距離の延長も期待されています。

この全個体リチウムイオン電池に関する文献を CAS SciFinder で検索してみたところ 2010 年頃は 200 件未満でしたが 年々増え続け 2022 年には 1,300 件ほどになっていて研究開発が盛んに行われていることがわかります。

また、この検索結果について、どこの企業・大学の発行数が多いのか解析してみました。

全固体電池と言えば、トヨタ自動車(株)が牽引しているイメージがありましたが、数値で見てもやはりトヨタ自動車の発行件数が最も多いことが分かりました。

実際にトヨタ自動車(株)が全個体電池に対してどのような取り組みをしているのか調べてみると国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) を中心として立ち上げられた「全固体電池マテリアルズ・オープンプラットフォーム」*3 に参画しており、様々な企業と連携して研究開発を積極的に行っていることがわかりました。

この様に盛んに研究が続けられている全固体電池ですが、最近技術はどこまで進んでいるのでしょうか。

このプロジェクトにも参画しており、トヨタ自動車とも縁があるデンソー (株) の2023 年に公開された特許 (特開JP2023016639) を見てみます。

抄録から、これがリチウムイオン電池の固体電解質に関する特許であり、900 ℃未満の低温焼結で高いリチウムイオン電導率を示す固定電解質について述べられたものであることがわかります。

また、ガーネット型の結晶構造を有し、Bi および Sb のうち少なくとも一方を含むリチウムランタンジルコニウム系複合酸化物で構成される固体電解質粒子を用いている点がポイントだとわかりました。

さらに、原報の公開特許公報を確認したところ、高出力化の為に低温焼結することが重要と記載されていました。知らない課題がたくさんあります・・・

物質検索を用いた追加調査

今回の特許では Bi および Sb のうち少なくとも一方を含むリチウムランタンジルコニウム系複合酸化物で構成される固体電解質が注目されていたのでさらにそれについて報告している文献も検索してみます。

Li、La、Zr、O、そして Bi もしくは Sb を含むという条件で物質を検索し、さらにその物質について報告した文献を見てみます。

回答として得られた文献数は 79 件、その内 29 件はセイコーエプソン(株)が発行したものであることが分かりました。

今回設定した条件の物質が書かれている特許については、デンソー(株)の出願は1 報のみと意外な結果でした。

一方でセイコーエプソン(株)はリチウムイオン電池関連の特許を 100 報以上出願しており電池の研究も盛んに行われていることがわかりました。プリンターの印象が強く新しい発見でした。

まとめ

今回調べたリチウム全固体電池は計画通りに開発が進めば 1,200 km も走行できる可能性があるそうです。このレベルまで到達すれば今のガソリン車を優に凌ぐ高性能と言えますね。

世の中の技術革新のスピードは速いので日々の情報収集はとても大事です。そんな時に CAS SciFinder を使ってみてください。今回の様に最新のプロジェクトや、ある企業の意外な側面など、新しい知見が得られるかもしれません。

 

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掲載日 2023 年 10 月 12 日