化学情報協会

CAS SciFinder Discovery Platform™

用途解析にもおすすめ! CAS ロールとは?

コラムでは、CAS SciFinder のユーザーの方を対象に、検索に関するお役立ち情報や、ちょっとした豆知識を提供します。本稿では化学物質の役割を表す CAS ロールを使うポイントや注意点を解説します。

ロールは化学物質の "役割"

CAS SciFinder の文献レコードには、その文献の中で重要な物質が収録されています。さらに、CAS のアナリスト (抄録や索引を作成する担当者) は、 物質を収録する際に、物質の役割も付けています。

 

これが CAS ロールです。

 

Substance 検索結果画面では、画面左側の Filter に Reference Role として示されます。

ロールの付与ルール

ロールは自由文で収録されるのではなく、数十種類の種類の中から選んで付与されます。

そのため、ざっくりとした分類ではありますが、原文献を読まなくても、目的の物質が該当文献中でどのように用いられているかが分かるというメリットがあります。

 

ひとつの化学物質に付けるロールの数に決まりはありませんので、ひとつしかロールがついていない物質もあれば、複数個が付与されている物質もあります。

 

また、特定ロールが付与された場合はその上位のスーパーロールも同時に収録されます。つまり、Analyte が収録されていれば、必ず Analytical Study も収録されているという具合です。

 

一方で、「(特定ロールを付与せず)スーパーロールのみを付与できる」というルールがあります。つまり、

 

Analyte

Analytical Matrix

Analytical Reagent Use

Analytical Role, Unclassified

 

の 4コードの結果を足し算するよりも、Analytical Study で検索した方が包括的な結果になります。

ロールの種類と階層

ロールには、スーパー・ロールと呼ばれる上位階層のコードと、それらスーパーロールの下位に属する特定ロールがあります。スーパー・ロールを使ったフィルタリングすると、そのスーパー・ロールに含まれるすべての特定ロールでフィルタリングしたのと同じ結果が得られます。

 

大部分のロールは 1967 年以降の文献に収録されています。

 

ただし、Preparation ロールだけは 1907 年まで遡及収録されています。そのため、Preparation ロールを使えば 1907 年から現在まで 100 年以上に渡って、的確な合成文献検索ができます。

スーパーロール (右の特定ロールの上位階層) 特定ロール (左のスーパーロールの下位階層) 年代

Analytical Study (1967-)

Analyte

Analytical Matrix

Analytical Reagent Use

Analytical Role, Unclassified

1967-
1967-
1967-
1967-
Biological Study (1967-)

Adverse Effect

Agricultural Use

Biochemical Process 

Bioindustrial Manufacture

Biosynthetic Preparation

Biological Study, Unclassified

Biological Use, Unclassified

Cosmetic Use 

Diagnostic Use 

Food or Feed Use

Natural Product Occurrence 

Pharmacological Activity 

Pharmacokinetics 

Therapeutic Use

1967-
1967-
2002-
1967-
1967-
1967-
1967-
2002-
2002-
1967-
2002-
2002-
2002-
1967-
Formation, Nonpreparative (1967-)
 

Formation, Unclassified

Geological or Astronomical Formation

1967-
1967-
Occurrence (1967-)

Geological or Astronomical Occurrence

Natural Product Occurrence

Occurrence, Unclassified

Pollutant

1967-
2002-
1967-
1967-
Preparation (1907-)

Bioindustrial Manufacture

Biosynthetic Preparation

Byproduct

Industrial Manufacture

Purification or Recovery

Synthetic Preparation

1967-
1967-
1967-
1967-
1967-
1967-
Process (1967-)

Biochemical Process 

Geological or Astronomical Process

Physical, Engineering, or Chemical Process

Removal or Disposal

2002-
1967-
1967-
1967-
Reactant or Reagent (1967-)

RCT Reactant 

RGT Reagent 

1967-
2002-
Uses (1967-)

Agricultural Use

Analytical Reagent Use

Biological Use, Unclassified

Catalyst Use

Cosmetic Use 

Diagnostic Use 

Food or Feed Use

Modifier or Additive Use

Other Use, Unclassified 

Polymer in Formulation

Technical or Engineered Material Use

Therapeutic Use

1967-
1967-
1967-
1967-
2002-
2002-
1967-
1967-
1967-
1967-
1967-
1967-

上位/下位のロールが存在しないもの

Combinatorial Study

Miscellaneous

Nanoscale

Properties

Prophetic Synthesis or Use

2002-
1967-
1992-
1967-
1993-

 

ロールの使いどころ

では、どのような時に CAS ロールを使うと便利なのか、使いどころをいくつかご紹介します。

キーワード検索で難しいコトをうまく検索できる

ロールは、「よく検索されるのに、それまでの検索では判別が難しかった事項を判別したい」というニーズで生まれました。

 

例えば、ある物質が Analyte なのか、Matrix なのかは、精密な近接演算子を使えるシステムだとしても検索するのは容易ではありません。

 

ほかにも、物質の副作用情報や毒性について記載されている文献を探したければ Adverse Effect を、医薬用途として用いられている文献を見たければ Therapeutic Use を使って、絞り込むのが便利です。

合成文献検索にもおすすめ

合成情報検索は Reaction 検索画面で行うという方も多いと思いますが、CAS ロールを使うと効果的なケースもあります。

特に次のようなケースが該当します。

  • 製造規模や合成タイプを限定したい場合

  • 無機、高分子など低分子有機化合物以外の合成文献を検索したい場合

製造規模や合成タイプを限定したい場合

先に紹介した CAS ロールの表をご覧ください。一般な製造「Preparation 」ロールだけでなく、実験室レベルでの化学合成であれば 「Synthetic Preparation」、一方でスケールアップした工業的な生産を考えているという場合には「Industrial Manufacture」を使う、というような使い分けができるのがロールのメリットです。

 

また、化学合成ではなく、生化学的な合成方法の文献を探したいケースであれば 「Biosynthetic Preparation」を用いるのが有効です。

無機、高分子など低分子有機化合物以外の合成文献を検索したい場合

Reaction 画面で反応情報検索を行う場合は、CAS Reaction データベースが検索対象になります。CAS Reaction データベースは、「有機化学反応情報のデータベース」です。これは CAS Reference の文献から合成的に意義のある有機化学反応を収録しているデータベースですから、低分子有機化合物の反応情報検索に適しています。

 

したがって、無機化合物の反応情報や、ポリマー分野の重合反応に関する文献を検索したい場合は、Substance ロール検索を行うことをおすすめします。

他の用途を調査したい場合

自社製品の転用を考えているようなケースでは用途解析がおすすめです。

 

化学物質を検索し、Reference Role を見てみましょう。用途は "○○  Use” と表示されています。

 

ロールの数が多い場合は、ダウンロードするのがおすすめです。Filter 欄の一番下に "Download filter data from this result set" というボタンがあるので、これをクリックし、ダウンロードしたい項目を選びます。

 

Reference Role にチェックを入れてダウンロードすると、Excel 形式のファイルが得られます。用途を見たい場合は、この Excel 中で文字列 Use を検索します。 

ロール使用時の注意点

年代

ロールを検索に使用する場合の注意点は、ずばり「年代」です。

 

大抵のロールは 1967 年以降の文献に収録されているので、ロールを使っただけでも 1967 年以降の文献に限定したのとほぼ同じ意味になります。中には 2002 年以降の文献に限定されるロールもあります。

スーパーロール or 特定ロール

もうひとつの注意をあげるなら、「ロールの階層 (スーパーロールか特定ロールか)」です。

 

付与ルールで述べた通り、特定ロールが付与された場合はその上位のスーパーロールも同時に収録されます。

検索モレを心配するのであれば、スーパーロールを使うべきです。

 

しかし、そもそもロールは化学物質の役割を指定することで回答を絞り込む目的で付与されているコードです。

的確な回答だけに限定したい場合は、特定ロールを選んで指定してください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

 

化学物質関連文献が多くヒットしたときの対処方法のおすすめは CAS ロールによる絞り込みです。

CAS ロールには階層関係があり、年代変遷があるところが注意点です。

 

ポイントを押さえて、正しく使用しましょう。

 

掲載日 2024 年 3 月 27 日