化学情報協会

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研究と教育の可能性を広げる CAS SciFinderⁿ

CAS SciFinderⁿ (サイファインダー・エヌ) ユーザーインタビュー

2021年12月掲載

お茶の水女子大学 大学院人間文化創成科学研究科 理学専攻 化学・生物化学コース

講師 三宅 亮介 先生
図書・情報課 利用支援担当(附属図書館) 餌取 直子さん
図書・情報課 図書館企画担当(附属図書館) 井上 梨恵子さん

お茶の水女子大学附属図書館

学部生の講義に CAS SciFinderⁿ の講習会を組み込んでいるお茶の水女子大学の先生、および図書館の皆さまに、CAS SciFinderⁿ を活用した情報検索と研究や学生教育の関わりについて伺いました。

生体分子を参考に、有機化学を使って巨大分子システムを構築する

——三宅先生の研究について教えてください。

三宅先生:私は、生体が進化の過程で試行錯誤を経て獲得したタンパク質や酵素などにおける機能設計のエッセンスを抜き出し、生体に匹敵するような人工複合システムを構築することを目指しています(図1)。

図1

具体的には、人工的に合成が容易な短いペプチドの金属錯体を使って、これらの課題に取り組んでいます。まずは、複合システムを作る上で、重要となる機能連動、巨大構造形成、活性中心の3つに観点から、基本的な設計に取り組んでいます。

生体の機能連動の例としては、ヘモグロビンが挙げられます。生体分子の柔軟な骨格を生かし、O2の包接によるアロステリックな挙動をCO2濃度などの因子で調節し、効率的なO2の運搬を実現しています。私たちは、こうした連動システムをシンプルな人工ペプチドの環状金属錯体の結晶で創出しました。環状分子の結晶では、環状骨格内とその骨格に囲まれた場所に性質の異なる空間を簡単に設計できる可能性があります。この結晶内の異種空間を利用することで、一方の空間で水分子を認識し、 もう一方の空間を開閉することでCO2分子の包接を可逆的にスイッチングすることに成功しました。

また、ペプチドのように柔軟な骨格から人工的に巨大構造、特に巨大空間を形成することは困難でした。私たちは、柔軟な骨格であっても網目状に組み合わせて安定化すれば、巨大な空間を人工的に形成できることを見出しました。金属イオンに結合するサイトを3種類導入した柔軟なトリペプチド配位子を用いて、直径が20Åに迫る空間を持つ巨大環状金属錯体の構築に成功しています。また、金属イオンの配列を制御して、 金属イオン(金属中心)の電子物性を制御することにも取り組んでいます。

現在は、このような基礎的な研究を行っていますが、将来的には、これらを組み合わせ、生体分子と同等の機能を持つシステムをデザインして合成できるところまで発展させたいと思っています。

——三宅先生の研究では、CAS SciFinderⁿ はどのように役に立っていますか?

三宅先生:CAS SciFinderⁿ は研究に必須のツールです。私たちは、機能を持った新しい分子を作ろうとしていますが、分子の合成は、過去に似たような物質を作っている例があれば、それを利用して合成を組み合わせていけばいいわけです。

参考となる反応の情報を得るのに、CAS SciFinderⁿ による検索が役立っています。また、 合成した分子の分析・測定結果についても、過去の論文を検索して類似物質の結果を参考にすることが重要です。
新しいコンセプトで研究を行っていく中で、類似の概念で行われた研究をフォローすることは大切です。このような文献にも、CAS SciFinderⁿ を重宝しています。異なる着眼点からなされた研究の場合、 使用する専門用語の違いからか、 キーワード検索ではうまくヒットしないものもあるので、似たようなものの中から類似しそうな箇所を検索して、その引用文献を全部調べています。

研究における情報検索の重要性と CAS SciFinderⁿ による情報検索を通じて深まる学び

——学生が CAS SciFinderⁿ を使って調べる際、どのようなアドバイスをされていらっしゃいますか。

三宅先生:初めは検索の仕方が分からない学生が多いです。自分自身で検索を試してもらうのですが、検索の道筋をつけます。例えば、ある測定手法で得られたピークが、何を意味しているのかを調べたい場合を例にとると、まず、「そのピークはこういう骨格を持った分子由来だから、構造検索を行って、その中から測定手法の名前で検索をして、探していってごらん」と、いう具合に出る。これに慣れてきたら「どうやったらいいと思う?」と意見を聞いたりしている過程で、学生が自分で検索結果を持ってくるようになります。こうしたやりとりを通して、情報を収集しそれを整理して課題を解決するスキルが成長していきます。なかなか相談に来ない学生もいますが、時間をかけて検索したのに上手く結果が出ないと本人も落ち込んでしまうので、途中でフォローを入れるようにしています。

JAICI:三宅先生、ありがとうございました。それでは、図書館における情報教育の取り組みについて、図書館のご担当者 (餌取さん、井上さん) にお聞きしたいと思います。

——まず自己紹介をお願いします。

図書館:(井上)図書館で契約に関する業務、例えば、電子ジャーナルや電子リソースなどの事務的な手続きを担当しています。(餌取)カウンター業務全般やリテラシー教育に関する業務を担当しています。

——お茶の水女子大学で、講義に CAS SciFinderⁿ の紹介を組み込むようになった背景を教えてください。

図書館:以前から、学生全体に向けた CAS SciFinderⁿ 講習会として、化学情報協会 (JAICI) の方に毎年来ていただいていました。それとは別に、化学科の教員より講義内でも CAS SciFinderⁿ に特化した学生向けの講習会をできないかというご相談があり、それ以降毎年来ていただくようになりました。

図書館では、大学の予算で学生や教員の皆さんに使ってもらうためにデータベースや電子ジャーナルを契約しています。Google などの web 検索を使えば全部済むと思う人もいるようですが、専門に特化したデータベースを使えば検索時間を短縮でき、より信頼性の高い結果が得られます。データベースごとに使い勝手が違うので、各々のデータベースの特徴や使い方のコツ、分野での使い分けなどを、なるべく早いうちから学生に知ってもらえると、学年が上がってきたときに学習や研究に役立つと思います。

JAICI:ご指摘の通り、他大学でも先生が直接講義するケースもございます。一方で、CAS SciFinderⁿ に精通している弊会スタッフが出向いて講習会を行う大学もございます。図書館主催のガイダンスを行うケースもあると伺っています。

対象となる学年も様々です。実験で必要な情報収集を行うことを目的として、3年生の学生実験に組み込んでいる大学もあれば、専門に特化した検索システムの存在を認識してもらうために、1年生を対象に必修事項として講義を行う大学もあります。

餌取さんと井上さん

講習会の様子

コロナ禍でも学びを止めないために~研究室や図書館の運営における取り組み~

——コロナ禍で図書館と学生の距離が遠くなって非常にコミュニケーションが難しくなっていると思います。その困難を乗り越える工夫についてお聞かせください。

図書館:図書館に来ることができなくても、メールや図書館システムから質問できるようにしています。コロナでオンライン授業がメインとなってからはデータベースなどを自宅から使いたいという人が増え、一時期はその使い方の問い合わせが毎日のようにありました。学生さんたちが自宅でそれぞれ学習研究に取り組んでいることがよく分かり嬉しかったのですが、ただ、データベースごとに学外から使う方法が少し違ったり、複数の方法がある中でもお勧めがあったりするのですが、メールではその説明が難しいときがあります。図書館では、授業やゼミ単位でご依頼いただいて実施するリテラシー講習会(オーダーメイド講習会)も行っていて、2020年度からはオンラインで実施しています。講習会では操作方法のデモをみてもらったり、実習をしてもらったりしています。こうした講習会の認知度を上げたり、図書館HPで案内している学外アクセス方法の説明をもっと分かりやすくしたりするなど、様々な図書館サービスをもっと知ってもらいたいと思います。

附属図書館

コロナ禍で授業がオンラインになって、登校を控えている学生が多いので、書籍の郵送貸し出しサービスを行っています。貸出物の図書館からの送料は、大学が負担しています。登校できなくても、ある程度のサービスは受けられるよう検討を重ねています。

——三宅先生は、コロナ禍での研究室運営に関して、苦労していることや工夫されていることはありますか。

三宅先生:実験にかけられる時間に制約が出たり、オンサイトでの学会発表ができなくなったりしています。特に、以前から、学生さんが視野を広げることができるようにと、外部の先生を招待して講演会を開催したり、十分な研究発表の機会が持てるように他大学との合同セミナーを企画したりしてきました。コロナ禍の今は、オンラインでしか開催できませんが、 出来るだけオンサイトでの開催に近い効果が期待できるよう試行錯誤を続けています。しっかりと時間をとって指導教員以外の教員と質疑応答する機会を提供し、学生によい経験を積んでもらいたいです。

JAICI:今日は貴重なお話をありがとうございました。弊会も、研究に教育に活用できるサービスや講習会を、今後も提供してまいります。


2021 年 8 月 24 日 実施

ユーザー紹介

お茶の水女子大学
〒112-8610 東京都文京区大塚2丁目1−1

日本初の女性のための高等教育機関として明治8(1875)年に開校。文教育学部、理学部、生活科学部の3学部と人間文化創成科学研究科の1研究科を持つ国立の総合大学。
「学ぶ意欲のあるすべての女性にとって、真摯な夢の実現の場として存在する」
この標語の下、国境を越えた研究と教育文化の創造と、女性たちの夢の実現を支援するための学びの場を提供し、時代と社会の要請に応えてグローバルに活躍する女性リーダーを育成することをミッションとする。

三宅 亮介(みやけ りょうすけ)先生

2007年東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程終了。2010年お茶の水女子大学 理学部化学科に着任。2017年講師、現在に至る。

CAS SciFinderⁿ (サイファインダー・エヌ) は、研究者が必要とする科学情報を、高度な検索エンジンとシンプルで使いやすいインターフェースより、最短ステップでご提供する検索ツールです。論文・特許に加えて、世界中の化学物質および化学反応情報を網羅的に検索できます。